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第9章 決済の安定6.おわりに

以上が決済システムに求められるシステミック・リスク対策の骨格です。決済システムの運営者はシステムの設計を行うにあたって、これらのリスク対策を備えるように努める必要があります。また、この決済システムを利用する銀行は、「当該システムに参加することで過大な損失分担を求められることがないか」について判断し、必要であれば運営者に対し改善を求めたり参加を取り止めるのです。決済システムに内在するシステミック・リスクは、こうした私的動機に基づく行動によって削減されることがあります。しかし、システミック・リスクは川の氾濫と似ていて、私的動機に基づく行動だけでは十分な対策が用意されないと考えられます。中央銀行という組織が作られている目的のひとつはここにあります。

これまで見てきたように、世の中の決済全般におけるシステミック・リスクを削減し、決済の安定を実現することは中央銀行の中核的な仕事です。具体的には、おさつや、それを変形した中央銀行当座預金という、発行者が破綻する恐れのない――その意味でユニークな――決済手段と決済システムを提供しています。中央銀行の金融政策という仕事も、こうした自らの責任で提供しているおかねの価値を安定させ、円滑な決済の基礎を作るという意義をもっています。同時に中央銀行は、自らが運営しない決済システムについてはそれらのシステミック・リスク対策を診断し必要な働きかけを行います――決済システムのオーバーサイトというのがこれです。また、おさつと交換できることを背景に広く「おかね」として使われる銀行預金については、これが安心して利用されるように銀行の決済リスク管理などの状態をモニターしていますが、これは銀行の「考査」と呼ばれています。これらの機能を総動員してシステミック・リスクの削減に努める――これが中央銀行の仕事なのです。

これで決済ということについての基本的なお話を終えることにします。私たちにとって身近なおかねや決済、あるいは銀行や中央銀行の役割について考えるきっかけとしていただければ幸いです。