金融システムレポート(2010年3月号)
安定に向かう国際金融システムと米欧のバランスシート問題
金融資本市場の改善と低調な資金需要
潜行する信用リスクと蓄積する金利リスク
金融システムの安定確保に向けて
2010年3月
日本銀行
金融システムの現状と課題:概観
金融システムの現状評価
国際金融システムは、金融資本市場における金融機関の資金調達環境が改善するもとで、米欧主要行の収益も回復するなど、2008年秋以来の危機的な様相から脱し、安定の方向に向かっている。こうしたなか、わが国の金融システムは全体として安定性を維持してきている。経済活動水準の急速な低下や資産価格の下落などに伴って増加した信用コストや株式減損処理も、このところ減少している。また、最近は、増資による自己資本基盤の強化や株式リスク削減に向けた動きの広がりなど、わが国金融システムの安定性を高める動きもみられている。
もっとも、国際金融システムの回復傾向は、各種の政策措置によって支えられている面が小さくない。また、米欧では、家計部門等のバランスシート調整が継続している。銀行貸出も減少を続けている。国際金融資本市場では、ソブリン・リスクに対する警戒感も台頭している。このように、国際金融システムは依然脆弱性を抱えている点に注意する必要がある。
わが国の金融システムも、信用コストの発生は足もと抑制されているものの、貸出債権の劣化が続いている。銀行の株式リスクも依然高い水準にある。また、長期運用の増加により、金利リスクが蓄積される方向にある。わが国の金融機関は、これらの状況を踏まえて、リスクとリターンのバランスを適切に評価しながら、リスク管理の充実と自己資本基盤の強化に引き続き努めていくことが重要である。
金融仲介機能
世界的な金融危機の発生以降、米欧の銀行貸出の伸びは一貫して低下している。一方、わが国の銀行貸出は、2009年初にかけて、企業の売上高減少やCP・社債市場の縮小を背景に、いったん顕著に増加した。その後は、設備投資の減少に伴う企業の資金需要の縮小に加え、社債発行の増加もあって、減少に転じている。このように、わが国の金融システムは、局面に応じて銀行貸出が金融資本市場の機能も一部補完しながら、全体として概ね円滑な金融仲介機能を維持してきたといえる。
ただし、2009年度入り後の企業の資金繰りの改善は、売上の持ち直しによるだけでなく、経費削減によってもたらされた面が大きい。企業の稼働率は、上昇しているとはいえ、なお損益分岐点を十分上回るまでには至っていない。特に中小企業に関しては、政府による緊急保証制度等の政策措置が資金繰り面を全体として下支えしているものの、このうち規模の小さい企業については資金繰りが依然厳しい状況にある。金融機関が今後とも適切に金融仲介機能を発揮していけるかどうか、注意深くみていく必要がある。
金融システムの頑健性
わが国の銀行が抱えるリスク量を自己資本対比でみると、2009年度入り後、全体としてやや減少した。資金流動性リスクも、2009年春以降の国際金融資本市場の機能改善を背景に、円貨のみならず外貨についても足もとでは抑制されている。また、先行きについて、より厳しいマクロ経済環境のもとで信用コストの増加や株価の低迷を想定する場合でも、銀行の自己資本基盤が全体として著しく低下する事態は回避されるとみられる。このように、わが国金融システムの頑健性は全体として維持されている。もっとも、相対的に収益力や自己資本基盤が弱い先では自己資本比率が先行きも低水準に止まるおそれがあるなど、金融システムにはなお脆弱な面も残されている。
また、金融システムの頑健性が先行きの金融仲介機能に及ぼす影響についてみると、より厳しいマクロ経済環境のもとで全体として自己資本が減少するような場合には、銀行のリスク・テイク行動の慎重化を通じて、実体経済活動が制約される可能性があることに留意する必要がある。
わが国銀行の収益性
わが国の銀行は、収益性の低さと収益の振れの大きさという、構造的な収益上の課題を抱えている。すなわち、貸出利鞘の低さを主因に、わが国銀行の収益率は米欧を大きく下回る水準に止まっている。また、信用コストと株式関係損益の変動が収益に大きな振れをもたらしている。わが国の場合、企業部門の収益率も主要国に比べて低く、銀行部門の収益性の低さは企業部門の収益性の低さと対応しているものであることにも留意する必要がある。
今後、日本経済が新たな成長経路への移行を模索していくうえで、わが国の銀行には、企業の成長性を見極め、その特性に応じた金融サービスを提供することが望まれる。こうした取組みは、長い目でみれば、資源配分の効率性を向上させるとともに、企業・銀行部門の収益性を高め、ひいては金融システムの安定性の向上にも資すると考えられる。
照会先
金融機構局経営分析担当
E-mail : post.bsd1@boj.or.jp
日本銀行から
本レポートは原則として2010年1月末までの情報に基づき作成されています。
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