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金融システムレポート(2020年4月号)

2020年4月21日
日本銀行

2020年4月号の問題意識

今回のレポート(2020年4月号)では、2月下旬以降、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大がグローバルな金融市場、実体経済に大きな影響を及ぼしているもとで、わが国の金融安定面への影響やリスクについて、これまで蓄積されてきた金融面の脆弱性との関係にも着目しつつ、足もとの状況や今後注視していくべき点を整理した。

わが国金融システムの安定性評価と今後の課題

現状評価

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い、世界経済にきわめて強い下押し圧力がかかるとともに、国際金融市場が不安定化している。各国株価の大幅な下落、拡張を続けてきた米欧クレジット市場の調整、基軸通貨であるドル資金市場の逼迫、新興国からの資金流出、原油価格の急落などが生じている。また、各国において、景気悪化に伴う信用コスト増加が見込まれるもとで、売上・収益の急減に直面した企業の資金需要が増大しており、金融機関の資本・流動性にも大きなストレスがかかっている。

こうした状況に対し、各国政府・中央銀行は緊密に連携しつつ、強力な財政・金融政策等を発動し、経済活動と企業金融の下支え、金融市場の機能維持を図っている。金融規制・監督面でも、バーゼルIII完全実施の1年延期や資本・流動性バッファーの活用奨励など柔軟な措置が講じられている。これらの政策対応もあって、これまでのところ、グローバルな金融システムにおける著しい信用収縮は回避されている。

わが国の金融システムも強いストレスを受けているが、全体として安定性を維持しており、経済活動が必要とする資金を供給している。これは、(1)従来本レポートがマクロ・ストレステスト等を通じて検証してきた通り、金融機関が資本・流動性の両面で相応に強いストレス耐性を備えていること、(2)政府・日本銀行が迅速かつ強力な政策対応を講じていること、(3)わが国企業が全体として、内部留保・手元資金の両面で良好な財務基盤を備えてきていること、によるものである。

先行きのリスクと留意点

もっとも、感染拡大の今後の展開やそれに伴う実体経済への下押し圧力の強さ、持続期間を巡る不確実性はきわめて大きい。

今回、金融システムに生じているストレスは、感染拡大によって人々の活動が大きく制約されることに伴う「実体経済ショック」に端を発している点で、「金融不均衡の調整」を直接の背景とする過去のバブル崩壊とは性質が大きく異なっている。もっとも、国内外の金融システムでは、今回の感染拡大が生じる以前から、低金利長期化のもとでの利回り追求行動に起因する様々な脆弱性が蓄積されてきていた。実体経済の大幅な落ち込みが長期化する場合には、それらの脆弱性を通じて金融面の本格的な調整に結びつき、「実体経済・金融の相乗的な悪化」につながる可能性がある。こうした観点から注視しておくべきわが国の金融安定上のリスクは以下の3点である。

第一は、国内外の景気悪化に伴う信用コストの上昇である。実体経済への影響が長引くと、足もとの資金繰り逼迫が信用力の問題に転化する企業が国内外で増えていく可能性がある。また、近年、わが国の金融機関は、低金利長期化のもとで、国内ではミドルリスク企業向け貸出や不動産賃貸業向け貸出、大型M&A関連など高レバレッジ案件向けの貸出を、海外ではエネルギー関連を含む相対的に信用力の低い企業への貸出を積み増してきた。これらのセクターは景気悪化に対し総じて脆弱と考えられる。第二は、金融市場の大幅な調整に伴う有価証券投資関連損益の悪化である。近年、大手行等は海外クレジット投資を、地域金融機関は多様なリスクを抱える投資信託等を積み増してきている。第三は、ドルを中心とする外貨資金市場のタイト化に伴う外貨調達の不安定化である。近年、金融機関は、海外貸出・有価証券投資を積み増すとともに、顧客性預金などの安定調達基盤を拡充してきているが、なお市場調達に依存する部分は小さくない。外貨調達の不安定化は、海外投融資の巻き戻し等を通じて、海外関連損益の悪化につながる可能性がある。また、第二、第三の点にみられるように、海外とわが国の金融システム間でリスクの波及が生じやすくなっている。

わが国の金融機関は、ここまでのストレスを経てなお相応に強い耐性を備えているほか、政府・日本銀行や海外当局の強力な政策対応が、今後も経済・金融両面から上記リスクの発現を抑止する方向に作用する。このため、金融安定は引き続き維持されると考えられるが、今後の情勢を予断なく点検していく必要がある。

金融機関の経営課題と日本銀行の対応

当面は、感染拡大が内外金融経済に大きなストレスを与えるもとで、金融機関は経営の健全性を保ちつつ、金融仲介機能の円滑な発揮を通じて経済を支えていくことが課題となる。感染収束後の局面では、企業の経営改善と経済回復を支援する役割が期待される。

より長い目でみると、金融機関は、今回のショックによって生じ得る経済・企業行動の変化も含め、低金利の長期化や人口減少、企業部門の貯蓄超過といった構造課題への対応を改めて進めていく必要がある。国内預貸収益への下押し圧力が継続するもとで、(1)大手行等は、グローバルな業務展開を通じてシステミックな重要性を高めてきており、それに対応したガバナンス強化が課題となる。(2)地域金融機関は、地域の活力向上への貢献から収益を得ていくための事業基盤の構築が従来以上に重要になる。また、(3)今回のストレス局面の経験も活かしつつ、リスクテイクを積極化する分野での管理力を強化していくことは、大手行、地域金融機関に共通する課題である。加えて、(4)デジタライゼーションや気候変動といった中長期の環境変化がもたらす機会とリスクにも、着実に対応していくことが求められる。

日本銀行は、新型コロナウイルスの感染拡大が続くなかで、政府や海外金融当局等と引き続き緊密に連携しつつ、金融安定の確保に万全を期すとともに、金融機関による金融仲介機能の円滑な発揮を最大限支援していく。また、中長期の視点から、上記4つの課題についても金融機関の取り組みを積極的に後押ししていく。

日本銀行から

本レポートは、原則として2020年3月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。 本レポートの内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融機構局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。
なお、マクロ・ストレステストのためのストレス・シナリオについては、シナリオ別データ [XLSX 16KB] をご覧ください。

照会先

金融機構局金融システム調査課

E-mail : post.bsd1@boj.or.jp