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金融システムレポート(2022年4月号)

2022年4月21日
日本銀行

  • 「ハイライト」は、今回号の主要な分析を簡潔にまとめたものです。

2022年4月号の問題意識

今回のレポート(2022年4月号)では、わが国の金融機関が現在直面しているリスクについて、(1)感染症拡大に伴う実体経済のストレスが信用リスクに及ぼす影響、(2)国際金融市場の調整など、グローバルな経済・金融面のショックが、海外貸出、有価証券投資、外貨資金調達にもたらすリスク、(3)感染症拡大以前から存在していた脆弱性の動向、の3つの観点から分析している。

マクロ・ストレステストでは、分析から明らかになった実体経済面と金融市場面のリスク認識を映じた2種類のダウンサイド・シナリオのもとで、金融機関と金融システムの頑健性を検証している。

要旨

金融システムの安定性に関する現状評価

国内外の経済・金融面で新型コロナウイルス感染症の影響が続くもとでも、わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。

政府・日本銀行は、大規模な財政・金融政策や規制・監督面の柔軟な対応により、経済活動の下支えと金融市場の機能維持を図っている。感染症の影響が大きい企業の収益に弱さがみられるが、金融機関の経営体力が総じて充実しているもとで、政策対応が効果を発揮し、金融仲介機能は円滑に発揮されている。金融市場では、米欧の金融緩和の縮小やウクライナ情勢が意識されるなかで、神経質な動きとなっている。

先行きのリスクと留意点

マクロ・ストレステストなどを用いた検証結果によると、先行き、感染症再拡大と米国長期金利上昇が共に生じて実体経済と国際金融市場が調整する状況を想定しても、わが国の金融システムは、相応の頑健性を備えている。もっとも、仮に、国際金融市場が大幅かつ急速に調整する場合には、金融機関の経営体力が低下して金融仲介機能の円滑な発揮が妨げられ、実体経済の一段の下押し圧力として作用するリスクがある。こうした観点から、注意すべきリスクは、以下の3つに整理することができる。

なお、ウクライナ情勢がわが国の金融システムに与える影響は、現時点では限定的とみられるが、先行きには大きな不確実性があり、以下に述べる国際金融市場の調整などを通じて影響が広がる可能性に注意が必要である。

第一のリスクは、感染症拡大による国内貸出の信用コストへの影響である。企業の財務内容や金融機関の信用コスト率についてのシミュレーション結果などを踏まえると、先行きの景気が引き続き回復基調を辿る場合には、感染症拡大前から企業の財務基盤が総じて強固なもとで、各種の企業金融支援策が強力な効果を発揮していることから、企業の財務内容の劣化および国内貸出の信用コストは全体として抑制されるとみられる。もっとも、感染症の影響は業種間・企業間で異なっており、景気回復が遅れる場合には、その影響が大きい企業への貸出を中心に、悪影響が及ぶリスクがある。

第二は、国際金融市場の調整など、先行きのグローバルな経済・金融面のショックが、わが国金融機関の海外貸出、有価証券投資、外貨資金調達などに影響を与えるリスクである。

海外貸出の信用リスクは、全体としてみれば抑制されているものの、グローバルな経済・金融環境が悪化する場合には、格付が低い先を中心に与信先のデフォルト率が上昇する可能性がある。今後、脱炭素に向けた世界的取り組みの影響が強まる可能性のあるエネルギー関連や先行きの需要に大きな不確実性がある空運関連の与信も、慎重にみていく必要がある。

有価証券投資関連では、グローバルな金融仲介活動に占める投資ファンドなどのノンバンクのプレゼンスが高まるもとで、わが国の金融機関と投資ファンドとの間の有価証券ポートフォリオの時価変動の相関でみた重複度が高まっている。この結果、ストレス時に直面する市場性リスクが、ノンバンクの動向によって増幅される可能性が強まっているとみられる。

外貨資金調達の面では、2020年3月の市場急変時のように、金融環境の広範な悪化がみられる場合には、預貸ギャップの拡大等も加わり、邦銀に大きなストレスがかかる可能性もある。米国金利上昇を中心として調達環境が変化しつつあるなかで、引き続き、外貨の調達基盤を強化しつつ、資金繰り管理について留意する必要がある。

第三は、感染症拡大以前から存在していた脆弱性にかかるリスクである。近年、わが国の金融機関は、低金利環境や構造要因のもとで、ミドルリスク企業向け貸出や、不動産業向け貸出、大型M&A関連など高レバレッジ案件向けの貸出を中心にリスクテイクを積極化させてきた。足もと、信用リスクは全体として抑制されているものの、この構図は続いている。

より長期的な視点からみても、低金利環境や構造要因が、金融機関収益の下押し圧力として長期にわたり作用し続け、金融仲介機能が停滞方向に向かうリスクや、逆に、利回り追求行動などに起因し、金融システム面の脆弱性が高まる可能性がある点に、引き続き留意していく必要がある。

金融機関の課題

金融機関にとって当面の重要課題は、感染症の帰趨、地政学リスクなどの内外経済を巡る不確実性のもとで、経営体力とリスクテイクのバランスを確保し、金融仲介機能を円滑に発揮していくことである。そうした観点からは、上記3つのリスクへの管理強化、貸出先企業の経営の持続可能性を踏まえた支援、先行きの不確実性を勘案した資本政策が重要である。

わが国では、人口減少や高齢化が進むなか、デジタル・トランスフォーメーション(DX)や気候変動など経済や社会を取り巻く環境が大きく変化しつつある。このもとで、金融機関には、わが国の生産性向上に資するという観点も踏まえて、財務の健全性を維持しつつ、持続可能な社会の実現に向け、付加価値の高い金融サービスを提供していくことが期待される。

日本銀行は、以上の点を踏まえて、政府や海外金融当局等と引き続き緊密に連携しつつ、金融システムの安定確保と金融仲介機能の円滑な発揮に取り組んでいく。中長期の視点からも、気候関連金融リスクやDXへの対応などを含め、金融機関の取り組みを積極的に支援していく。

日本銀行から

本レポートは、原則として2022年3月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。本レポートの内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融機構局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。
なお、マクロ・ストレステストにおける各シナリオの経済・金融変数については、シナリオ別データ [XLSX 26KB] をご覧ください。

照会先

金融機構局金融システム調査課

E-mail : post.bsd1@boj.or.jp