2022年度の金融市場調節
2023年6月7日
日本銀行金融市場局
要旨
日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現にむけて、2022年度を通じて、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもと、強力な金融緩和を推進した。
金融市場調節を取り巻く環境を振り返ると、わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、経済の持ち直しに伴い、中小企業も含めて、年度を通じて改善傾向を維持した。国際金融市場では、米欧中央銀行による金融政策を巡る不確実性や世界経済の減速などが意識されるもとで、神経質な展開が続いた。こうしたなか、海外金利の上昇や本邦金融政策に関する思惑などを背景に、2022年度を通して本邦国債金利に対する強い上昇圧力が継続した。日本銀行は、これらをはじめとする様々な環境変化を踏まえつつ、金融政策決定会合で決定した金融市場調節方針や資産買入れ方針に基づいて各種オペレーションを実施し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定およびそれらを通じた緩和的な金融環境の維持に努めた。
各種オペレーションの運営にかかるポイントは以下のとおりである。
まず、長期国債の買入れについては、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、長期金利(10年物国債金利)がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを弾力的に運営した。2022年12月の金融政策決定会合までは、長期国債買入れの四半期予定において、1回当たりのオファー金額を特定の金額で示す運営を継続したうえで、四半期毎の買入れ額やひと月当たりの買入れ頻度については、各ゾーンにおける国債の需給環境などを踏まえ、柔軟に調整した。その後は、12月の金融政策決定会合において、長期金利の変動幅拡大(±0.25%程度→±0.5%程度)と合わせ、国債買入れを大幅に増額する旨を決定したことを踏まえ、2023年1~3月の買入れ予定を増額し、そのもとで大規模な国債買入れを実施した。その際、1回当たりのオファー金額については、従前の特定の金額を示す扱いからレンジで示す扱いに変更し、オファー毎に弾力的に調整した。さらに、こうした事前に予定している国債買入れに加えて、金利の動向を踏まえ、買入れの増額・買入れ日程の追加も機動的に行った。
固定利回り方式による買入れ(指値オペ)については、2022年4月の金融政策決定会合前までは、機動的に、10年物国債のカレント3銘柄を対象とする指値オペ・連続指値オペを実施した。同決定会合において、10年物国債金利について0.25%の利回りでの指値オペを、原則毎営業日実施することを明確化した後は、5月2日以降、実際に10年物国債のカレント3銘柄を対象とする指値オペを毎営業日実施した。このほか、2022年6月には長期国債先物のチーペスト銘柄を対象に0.25%の利回りでの指値オペを実施し、その後、これを連続指値オペとして、先物の限月交代を踏まえて対象銘柄の追加、入れ替えを行いつつ、継続的に実施した。12月の金融政策決定会合で長期金利の変動幅拡大を決定した後は、10年物国債のカレント3銘柄およびチーペスト銘柄を対象とする指値オペを、利回り水準をそれぞれ従前の0.25%から0.5%に変更したうえで、毎営業日実施した。また、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、必要に応じて、2年物、5年物、20年物国債を対象に機動的に指値オペを実施した。
共通担保資金供給オペについては、年度を通じて、貸付利率ゼロ%の固定金利方式で、原則として2週間物を概ね隔週1回のペースで継続的にオファーした。2022年9月27日以降は、同月の金融政策決定会合での決定を踏まえ、金額に上限を設けずに実施した。2023年入り後には、海外金利の上昇や本邦金融政策に関する思惑の高まりなどを背景に、本邦国債市場のボラティリティが高い状況が続いていたもとで、現物国債の需給環境に直接的な影響を与えることなく、現物市場以外の市場も含めて、長めの金利を低位に安定させる観点から、貸付利率ゼロ%の固定金利方式による2年物のオペを実施した。さらに、2023年1月の金融政策決定会合において、金利入札方式での貸付期間を10年以内までに延長することを含んだ本オペの拡充が決定されたもと、金利入札方式による5年物のオペを実施した。
こうした国債買入れや共通担保資金供給オペの運営のもと、長期金利は、海外金利の動向、本邦経済・物価情勢や金融政策に関する思惑などに応じて上下しつつ、年度中の多くの期間において、変動幅の上限に近い水準で推移した。
国庫短期証券の買入れについては、市場の需給動向を踏まえつつ、毎回のオファー金額は柔軟に調整し、1回当たり1,000億円~1兆円のオファーを行った。こうしたオペ運営のもと、国庫短期証券の利回りは、振れを伴いつつ、短期政策金利(-0.10%)を下回る水準で推移した。
ETF、J-REITの買入れについては、資産買入れ方針に沿って、それぞれ年間約12兆円、同約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行った。
CP等、社債等の買入れについては、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していくとする資産買入れ方針に沿って、買入れを行った。2022年12月の金融政策決定会合では、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることを決定したほか、2023年3月の金融政策決定会合では、CP等の買入れについて、約2兆円の残高を維持するという買入れ方針を決定した。以上のような買入れ運営のもと、CP発行金利は低位で推移した。社債流通利回りの対国債スプレッドは、投資家のリスクセンチメント慎重化などから拡大したあと、2023年入り後は横ばいとなった。
新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(以下、「新型コロナ対応特別オペ」)については、2022年9月の金融政策決定会合において、2022年12月末に中小企業等向けの制度融資分、2023年3月末に同プロパー融資分の新規貸付を終了することを決定した。2023年3月末時点の貸付残高は6.0兆円と、昨年度末に終了した民間債務担保分の期落ちが進むもとで、年度を通じて大きく減少した。
外貨の供給に関し、ニューヨーク連邦準備銀行との為替スワップ取極に基づく米ドル資金供給オペについては、2023年3月17日までは原則として1週間物を週次でオファーした。3月20日以降は、カナダ銀行、イングランド銀行、欧州中央銀行、米国連邦準備制度およびスイス国民銀行とともに、米ドル・スワップ取極を通じた流動性供給を拡充するための協調行動として、1週間物の米ドル資金供給の頻度を週次から日次に引き上げることに合意したもとで、全ての営業日で1週間物のオファーを実施した。ドル調達コストは、米国連邦準備制度が利上げを進めるもとで、ドルOISの上昇を主因として、2022年度を通じて上昇した。3月中旬以降は、米国における一部金融機関の破綻や欧州における一部金融機関の経営不安を背景に、リスクセンチメントが悪化するもとで、ドル調達プレミアムが拡大する形でドル調達コストが上昇する場面もみられたものの、邦銀の米ドル資金繰りに特段の問題がみられないもと、オペの利用はみられなかった。
この間、国債補完供給については、大規模な国債買入れを実施するもとで、年度を通じてオファー銘柄の拡大やオペ利用先ごとの応募銘柄数の上限引上げの緩和措置を継続し、落札額は高水準で推移した。そのうえで、チーペスト銘柄等については、レポ市場における国債需給が過度に引き締まることを抑制し、市場の安定を確保する観点から、2022年6月17日以降、連続利用日数の上限の引上げおよび減額措置にかかる要件の緩和を実施した。他方、10年物国債のカレント3銘柄については、一時的かつ補完的な国債の供給を目的とする国債補完供給の趣旨に即した利用を確保するとともに、金融市場調節の一層の円滑化を図る観点から、レポ市場における需給が長期に亘り著しく引き締まる懸念があると認められる銘柄を対象に、2023年2月27日以降、最低品貸料の見直しおよび必要に応じた売却上限額の引下げを実施した。
こうしたもとで、日銀当座預金は、新型コロナ対応特別オペの段階的終了を主因に減少した。基準比率は、新型コロナ対応特別オペの段階的な終了に伴うマクロ加算残高の減少や大規模な国債買入れによる資金供給を映じて、多くの積み期間において大幅な引上げ方向で設定した。マクロ加算残高の加算措置の剥落や基準比率の引上げがマクロ加算残高の上限値に与える影響が業態毎で異なる結果、資金調達・資金放出の両サイドで短期金融市場での取引ニーズが継続し、日銀当座預金の三層構造を利用した裁定取引や、レポ市場とコール市場との間での裁定取引等が活発に行われたことから、レポ市場、無担保コール市場の取引残高は、年度を通じて高水準となった。コールレートおよびGCレポレートは、総じてみれば短期政策金利を小幅に上回る水準で推移した。
日本銀行から
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