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銀行の決済サービスの課金体系に関する考察

2020年2月10日
日本銀行決済機構局

要旨

銀行の決済サービスは、多くの経済主体の活動に必要不可欠な社会インフラとしての側面を持つ。このため、決済サービスの課金体系を考察する際には、銀行にとっての採算性という視点だけではなく、社会全体の経済厚生にどのような影響が及ぶかという視点をあわせもつことが重要である。

わが国では、顧客が決済サービスの利用の都度、手数料を課す個別課金制を採用する銀行が多い。個別課金制は、口座維持手数料が無いため、多くの人が預金口座を持ちやすく、送金可能先の拡大に伴い顧客の便益が増すという、ネットワーク効果が働きやすい。また、銀行は口座を通して多くの顧客接点を確保することで、貸出や資産運用等の拡大を図ることもできる。しかし、個別課金制における決済サービスの手数料は、サービスの提供にかかる限界費用を上回るため、顧客による決済サービスの利用が十分拡がらず、社会全体として十分な便益を享受できていない可能性がある。

さらに、個別課金制のもとでは、口座維持手数料という基本料金を顧客から徴収しないため、決済サービスの提供に必要な固定費が増加すると、銀行の決済ビジネスの採算が大きく悪化する可能性がある。実際、システム開発や運営体制の整備、本人確認にかかる規制対応などを背景に、固定費が近年嵩む傾向にある。銀行の決済ビジネスの採算悪化が続けば、決済サービスの安定的な供給が損なわれるおそれもある。

一方、欧米では、顧客が口座維持手数料を月々支払えば、あとは振込手数料を払わずに何度でも送金できる定額課金制や、口座維持手数料と振込の都度払い手数料を組み合わせた二部料金制を採用する銀行が多い。こうした課金体系のもとでは、銀行は口座維持手数料を固定費にあてることができるため、決済サービスの採算悪化を緩和できる。また、サービス利用にかかる手数料が個別課金制よりも低く設定されるため、決済サービスの利用が増加し、社会全体として享受できる便益が拡大するという利点もある。

銀行の預金口座は、決済サービスだけではなく、貸出や資産運用など複数のビジネスの入り口となるものである。このため、課金方式を選択する際には、様々な要素を考慮する必要があるが、経済学の知見や海外の事例は参考になると思われる。

日本銀行から

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照会先

決済機構局決済システム課

E-mail : post.pr@boj.or.jp