地域経済報告 —さくらレポート— (2013年1月) *
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2013年1月15日
日本銀行
目次
- III. 地域別金融経済概況
- 参考計表
I. 地域からみた景気情勢
各地の景気情勢を前回(12年10月)と比較すると、8地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から判断を引き下げる報告があった。各地域からの報告をみると、海外経済の減速した状態が続いていることなどを背景に、多くの地域が「弱含みとなっている」、「弱めの動きとなっている」などとしているほか、東北、九州・沖縄でも、「回復の動きが一服している」、「全体として横ばい圏内の動きを続けている」としている。
この間、北海道からは、「持ち直しの動きが続いているものの、一部に弱めの動きがみられている」と、前回からの変化はないとの報告があった。
12/10月判断 | 前回との比較 | 13/1月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 引き続き持ち直しの動きはみられるものの、このところ弱めの動きがみられ始めている | ![]() |
持ち直しの動きが続いているものの、一部に弱めの動きがみられている |
東北 | 一部に弱めの動きがみられるものの、公共投資が大幅に増加しているなど、全体として回復している | ![]() |
回復の動きが一服している |
北陸 | 横ばい圏内の動きとなっている | ![]() |
弱含みとなっている |
関東甲信越 | 横ばい圏内の動きとなっている | ![]() |
弱含みとなっている |
東海 | 回復の動きが一服している | ![]() |
全体として弱めの動きとなっている |
近畿 | 全体として足踏み状態となっているが、一部に弱めの動きがみられている | ![]() |
弱めの動きとなっている |
中国 | 全体としてなお横ばい圏内にあるものの、輸出の減少等を背景として、生産等を中心に弱めの動きがみられる | ![]() |
弱含みとなっている |
四国 | 持ち直し基調にあるものの、そのテンポが緩やかになっている | ![]() |
持ち直しの動きが一服し、弱めの動きがみられている |
九州・沖縄 | 輸出、生産が弱めの動きとなるなど、全体として持ち直しのテンポが緩やかになっている | ![]() |
全体として横ばい圏内の動きを続けている |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
公共投資は、東北から、「大幅に増加している」、6地域(北陸、関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「増加している」や「持ち直している」等の報告があったほか、北海道、東海からも、「下げ止まっている」、「概ね横ばいで推移している」との報告があった。
設備投資は、7地域(北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、四国、九州・沖縄)から、底堅い非製造業の動きなどから全体として「増加基調を維持している」、「底堅い動きとなっている」等の報告があったが、このうち複数の地域からは、製造業で「海外経済減速等の影響がみられる」、「計画を先送りする動きがみられる」等の報告もあった。また、近畿、中国からは、企業収益の改善が頭打ちとなっていることなどを背景に、これまでの持ち直しの動きが「一服している」、「鈍化している」との報告があった。
個人消費は、3地域(北海道、北陸、中国)から、「弱含みとなっている」等の報告があった。また、近畿、四国からは、「横ばい圏内ながらも、弱めの動きがみられている」、「一部に政策効果の反動減がみられている」との報告があった。この間、4地域(東北、関東甲信越、東海、九州・沖縄)からは、「底堅く推移している」等の報告があった。
大型小売店販売額は、東北、九州・沖縄から、「底堅く推移している」等、四国からは、「横ばい圏内の動き」との報告があった。一方、北海道からは、天候不順の影響などもあって「やや弱めとなっている」との報告があったほか、北陸からも「弱めの動きとなっている」との報告があった。また、4地域(関東甲信越、東海、近畿、中国)からは、「スーパーは弱めの動き」との報告があった。
乗用車販売は、ほとんどの地域から、エコカー補助金の終了を背景に、「減少している」、「前年を下回っている」等の報告があった。ただし、複数の地域から、このところ「反動減の影響は和らぎつつある」等の報告があった。
家電販売は、スマートフォンや節電機能に優れた白物家電等が堅調である一方、薄型テレビ等が低調であることから、多くの地域から、「低調に推移している」、「前年を下回っている」との報告があった。
旅行関連需要は、多くの地域から、「持ち直している」、「堅調に推移している」等の報告があった。
住宅投資は、東北から、「増加している」、7地域(北海道、北陸、関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」等の報告があったほか、東海からは、「底堅く推移している」との報告があった。
生産は、海外経済の減速した状態が続いていることなどを背景に、8地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「減少している」等の報告があったほか、北陸からも、「全体としては高操業を維持しているものの、海外経済減速の影響が広がりつつある」との報告があった。
業種別の主な動きをみると、輸送機械は、6地域(北海道、関東甲信越、東海、中国、四国、九州・沖縄)から、「減少している」、「操業度が一段と低下している」等の報告があったほか、一般機械、鉄鋼でも、多くの地域から、「減少している」等の報告があった。電子部品・デバイスは、スマートフォン向けが好調に推移する一方、家電向けやパソコン向けが低調なことから、多くの地域から、「全体では弱めの動きとなっている」等の報告があった。この間、化学については、複数の地域から、医薬品を中心に「高水準の生産を維持している」等の報告があった一方、「アジア向けを中心とした外需の低迷から、操業度を引き下げる動きがみられている」等の報告もみられるなど、区々の動きとなっている。
雇用・所得動向は、多くの地域から、厳しい状況が続く中で、「労働需給の改善の動きが一服している」等の報告があった。
雇用情勢については、多くの地域から、「改善の動きが一服している」、「これまでの改善傾向が足踏み状態となっている」等の報告があった。雇用者所得は、3地域(北海道、関東甲信越、中国)から、「弱めの動きが続いている」等の報告があったほか、北陸からは、「持ち直しの動きが一服している」との報告があった。この間、4地域(東海、近畿、四国、九州・沖縄)からは、「横ばい圏内の動きとなっている」、「概ね前年並みとなっている」等の報告があった。
需要項目等
公共投資 | 設備投資 | 個人消費 | 住宅投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 下げ止まっている | 製造業中心に持ち直している | 弱含みとなっている | 貸家中心に持ち直している | 海外経済減速の影響等から減少している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は厳しい状況の中で緩やかに持ち直しているものの、雇用者所得は弱めに推移している |
東北 | 震災復旧関連工事を主体に、大幅に増加している | 増加している | 底堅く推移している | 震災に伴う建て替え需要等から増加している | 海外経済減速の影響から、幾分低下している | 雇用情勢は、改善の動きが一服している |
北陸 | 北陸新幹線関連の施設案件や小・中学校の耐震関連工事等を中心に増加している | 海外経済減速等の影響がみられるものの、製造業を中心に持ち直している | 弱めの動きとなっている | 持ち直している | 全体としては高操業を維持しているものの、海外経済減速の影響が広がりつつある | 雇用情勢は、持ち直しの動きが一服している。雇用者所得は、持ち直しの動きが一服している |
関東甲信越 | 増加基調にある | 製造業に投資先送りの動きがみられるものの、全体としては非製造業を中心に増加基調を維持している | 底堅く推移している | 持ち直している | 海外経済の減速などから減少している | 雇用・所得情勢は、改善の動きが一服している |
東海 | 概ね横ばいで推移している | 着実に増加している | 底堅く推移している | 底堅く推移している | 減少している | 雇用・所得情勢は、弱めの動きとなっている |
近畿 | 増加している | 企業収益の改善が頭打ちとなる中、製造業を中心に持ち直しの動きが鈍化している | 横ばい圏内ながらも、弱めの動きがみられている | 持ち直している | 海外経済減速などの影響から、減少しており、在庫も高めの水準となっている | 雇用情勢をみると、労働需給の改善の動きが一服している。雇用者所得は、賃金に一部弱めの動きがみられるが、振れを均してみると、なお横ばい圏内の動きとなっている |
中国 | 緩やかに持ち直しつつある | これまでの持ち直しの動きが一服している | 弱めの動きがみられている | 緩やかな持ち直しが続いている | 緩やかに減少している | 雇用情勢は、積極的な求人のある職種で求職者の応募が少ないミスマッチが続く中、製造業の一部で人員削減の動きがみられるなど、厳しい状況が続いている。雇用者所得は、企業の人件費抑制等を背景に、弱い動きが続いている |
四国 | 持ち直し基調にある | 底堅い動きとなっている | 横ばい圏内の動きとなっているが、一部に政策効果の反動減がみられている | 持ち直している | 幾分弱めの動きとなっている | 雇用・所得情勢は、これまでの改善傾向が足踏み状態となっている |
九州・沖縄 | 持ち直している | 計画を先送りする動きがみられるものの、前年を上回っている | 全体として底堅さを維持している | 持ち直している | 海外経済の減速した状態が続いていることなどを背景に、操業度を引き下げる動きが広がっており、全体として減少した状態が続いている | 雇用・所得情勢は、厳しい状態が続いており、労働需給面では、製造業を中心に弱めの動きがみられている |
II. 地域の視点
各地域における最近の雇用・賃金の動向
最近の雇用・賃金の動向をみると、全体として厳しい状況が続いており、労働需給面におけるこれまでの改善の動きも頭打ちとなっている。地域別にみると、産業構造や外需・内需の動向がもたらす影響の違いなどを反映して、ばらつきがみられている。
雇用についてみると、製造業では、外需関連のウェイトの高い業種を中心に弱めの動きとなっている。すなわち、海外経済の減速などによる輸出の減少やエコカー補助金の終了などを背景に生産が減少する中で、非正規社員の雇止めが実施されている。加えて、電気機械などで国内生産体制を見直す動きがみられ、希望退職による正規社員削減の動きも生じている。一方、復興・住宅関連、食料品などの内需関連業種の雇用スタンスは堅調となっている。
非製造業では、製造業の生産減少の影響を受けている業種も一部にあるが、全体としては堅調な雇用スタンスを維持している。すなわち、建設業や介護事業では復興・住宅関連や介護市場拡大による需要増、小売業・飲食業などでは新規出店により、いずれも採用意欲は強い。こうした業種では、求人を出しても、求職者サイドにおいて、例えば、製造部門から営業や接客などに職種を変えることや業種特有の勤務形態に従うことへの敬遠などもあって、十分な求職者が集まらないといったミスマッチが指摘されている。また、実際に職に就いても、思っていたより就労環境が厳しいとして離職してしまう者も多いとの声も聞かれている。
賃金については、製造業を中心に減産などにより所定外給与が減少しているほか、最近の業績悪化や前年度の厳しい業績を背景に冬季賞与を減らす企業が多くみられる。なお、建設業、飲食業、小売業などの一部では、人員確保を狙って賃金をやや引き上げる動きもみられている。
わが国では、労働者派遣法改正など雇用を巡る制度見直しが行われているほか、グローバル化の進展に伴い海外経済や為替相場の変動による影響を受けやすくなっていること、国内人口の趨勢的な減少など、企業を取り巻く環境が変化しており、こうした中で正規、非正規の雇用スタンスに以下のような特徴がみられている。
すなわち、非正規雇用をみると、多くの企業では、制度改正に対して派遣から有期契約の直接雇用や請負へ切り替えるといった対応をとっており、労働コストを抑制しつつ需要変動時の柔軟な対応力を確保していくため、引き続き有期契約など非正規雇用を重視する基本スタンスを変化させていない。中には、賃金などの待遇面の改善を図り、非正規社員をより積極的に活用しようとする企業もみられている。
一方、正規雇用に対しては、高度なスキルや能力を期待するニーズが高まっている。すなわち、グローバル展開が進む中で、業種や規模を問わず外国語能力や海外経験を有する人材を求める動きや、製造業では国内生産拠点を「マザー工場」と位置付け生産技術者や開発者を確保する動きが増えている。非製造業でも高付加価値サービスの提供に適した人材を採用・育成しようとするケースがみられている。
やや長期的にみると、わが国の生産年齢人口は少子高齢化の進展から減少していく見通しにある。こうした中、企業では、高齢者の技能やノウハウ、女性ならではの視点や経験などを評価し、高齢者や女性の労働力を活用する動きが広がっている。
この点、高齢者の雇用については、厚生年金の支給開始年齢引き上げに対応して継続雇用制度などが整備されてきている。例えば、製造業や建設業などでは経験豊富な高齢者を低賃金で雇用できるメリットを評価し、若手指導や技能継承の担い手として積極的に活用する動きが広がっている。特に製造業の中小企業では高齢者を教育コストが不要な即戦力としても期待している。また、今般の制度改正で継続雇用を希望する者全員を雇用することとなり、体力や就業意欲面を意識する企業(運輸業、サービス業など)もみられるが、業務や待遇面で工夫しつつ、より長く働いてもらおうとする動きもある。なお、高齢者雇用が拡大するもとで、新卒採用については、社内の年齢構成や技能・ノウハウ継承を意識してこれまでの採用方針を変えないとする企業がある一方、人件費の増加を避けるために新卒採用を抑制せざるを得ないとの声も聞かれている。
女性の雇用についても、小売業・サービス業などでは女性ならではの視点や経験などを企画・販売などに活かせるとして積極化させている。また、女性の側にも世帯収入を補うために労働参加に踏み切る動きがある。こうした中、企業では、育児休業制度の拡充や社内託児所の整備、勤務時間の柔軟化のほか、復職の可能性を高める制度の導入や多様な働き方の提供など、子育て中の女性や一旦離職した主婦が復職しやすい環境の整備に取り組んでいる。もっとも、女性雇用の一段の拡大に向けては、託児所の確保や就労時間の柔軟化への一層の取り組み・配慮などが必要とする声が多く聞かれている。
各地域では、行政、民間、大学が連携しながら、雇用確保・拡大に向けて、成長期待分野の産業育成、企業誘致、ミスマッチの縮小、若年層の就業促進などに取り組んでおり、今後もこうした雇用促進のための一層の取り組みが期待される。
日本銀行から
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