地域経済報告 —さくらレポート— (2014年1月) *
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2014年1月16日
日本銀行
目次
- III. 地域別金融経済概況
- 参考計表
I. 地域からみた景気情勢
各地の景気情勢をみると、国内需要が堅調に推移し、生産が緩やかに増加している中で、雇用・所得環境も改善していることを背景に、「回復している」、「緩やかに回復している」等の報告があった。
前回(13年10月)と比較すると、4地域(東北、関東甲信越、近畿、九州・沖縄)で景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしているほか、5地域(北海道、北陸、東海、中国、四国)からは雇用・所得環境に支えられた個人消費の改善等から判断を引き上げる報告があった。
13/10月判断 | 前回との比較 | 14/1月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 緩やかに回復しつつある | ![]() |
緩やかに回復している |
東北 | 回復している | ![]() |
回復している |
北陸 | 着実に持ち直している | ![]() |
緩やかに回復しつつある |
関東甲信越 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
東海 | 緩やかに回復している | ![]() |
回復している |
近畿 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
中国 | 全体として緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
四国 | 緩やかに回復しつつある | ![]() |
緩やかに回復している |
九州・沖縄 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
公共投資は、東北、九州・沖縄から、「大幅に増加している」等、6地域(北海道、北陸、関東甲信越、近畿、中国、四国)から、「増加している」、「増加傾向を維持している」との報告があった。また、東海からは、「高めの水準で推移している」との報告があった。
設備投資は、4地域(北海道、東北、関東甲信越、東海)から、「増加している」等、4地域(近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」、「持ち直しの動きが広がっている」等の報告があった。また、北陸からは「底堅く推移している」との報告があった。この間、企業の業況感については、多くの地域から、「改善している」、「広がりを伴いつつ改善を続けている」等の報告があった。
個人消費は、雇用・所得環境が改善していること等を背景に、北海道から、「緩やかに回復している」、5地域(北陸、東海、近畿、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があったほか、関東甲信越から、「底堅さを増しており、都心部では強めの動きとなっている」との報告があった。また、東北、中国から、「底堅く推移している」との報告があった。
大型小売店販売額をみると、百貨店は、多くの地域から、高額品の販売が堅調となっているなど、「持ち直しの動きが続いている」、「堅調に推移している」等の報告があった。スーパーは、複数の地域から、「概ね下げ止まっている」、「持ち直しの動きがみられている」等の報告があった。
乗用車販売は、新型車投入効果や消費税率引き上げ前の駆け込み需要等を背景に、多くの地域から、「増加している」等の報告があった。
家電販売は、節電機能に優れた白物家電が堅調であること等を背景に、多くの地域から、「持ち直しつつある」、「底堅い動きとなっている」等の報告があった。
旅行関連需要は、多くの地域から、「持ち直している」、「堅調に推移している」等の報告があった。この間、複数の地域で、外国人観光客が増加しているとの報告があった。
住宅投資は、消費税率引き上げ前の駆け込み需要等もあって、8地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「増加している」等の報告があった。一方、北海道からは、「持ち直しの動きが鈍化している」との報告があった。
生産(鉱工業生産)は、国内需要が堅調に推移しているほか、海外需要も緩やかに持ち直していることを背景に、5地域(北海道、北陸、関東甲信越、近畿、中国)から、「緩やかに増加している」等の報告があったほか、東北、四国から、「持ち直している」等の報告があった。また、東海からは、「高めの水準で推移している」との報告があった。この間、九州・沖縄からは、「緩やかな増加の動きに一服感がみられる」との報告があった。
業種別の主な動きをみると、輸送機械は、「高めの水準で推移している」、「増産している」等の報告があった。鉄鋼、化学は、「高操業を続けている」、「横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。また、はん用・生産用・業務用機械でも、「持ち直している」等の報告があった。金属製品、窯業・土石についても、「増加している」等の報告があった。この間、電子部品・デバイスは、「持ち直している」等の報告があった一方、「増勢が一服している」等の報告もみられるなど、区々の動きとなっている。
雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。
雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は改善している」等の報告があった。雇用者所得は、九州・沖縄から、「概ね横ばい圏内となっている」との報告があった一方、5地域(北海道、関東甲信越、東海、近畿、四国)から、所定外給与や賞与の増加等を背景に、「改善の動きがみられている」、「持ち直しの動きがみられている」等の報告があった。
需要項目等
公共投資 | 設備投資 | 個人消費 | 住宅投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 各種経済対策を受けて増加傾向を維持している | 景気が緩やかに回復する中、売上や収益の改善を受けて、増加している | 消費者マインドの改善に雇用環境の緩やかな改善も加わり、緩やかに回復している | 持ち直しの動きが鈍化している | 国内外需要の増加を背景に、緩やかに増産している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は改善している。雇用者所得は、幅広い業種で所定外給与や冬季賞与が増加するなど持ち直している |
東北 | 震災復旧関連工事を主体に、大幅に増加している | 増加している | 底堅く推移している | 震災に伴う建て替え需要等から増加している | 持ち直している | 雇用・所得環境は、改善している |
北陸 | 増加傾向を維持している | 製造業を中心に底堅く推移している | 緩やかに持ち直している | 増加している | 着実に増加している | 雇用・所得環境は、持ち直している |
関東甲信越 | 増加している | 非製造業を中心に増加基調にある | 底堅さを増しており、都心部では強めの動きとなっている | 消費税率引き上げ前の駆け込み需要等から、増加している | 緩やかに増加している | 雇用・所得情勢は、労働需給面で改善しているほか、所得面でも持ち直しの動きが続いている |
東海 | 高めの水準で推移している | 一段と増加している | 持ち直している | 増加している | 高めの水準で推移している | 雇用・所得情勢は、改善している |
近畿 | 増加している | 持ち直しの動きが広がっている | 消費者マインドの改善などから、緩やかに持ち直している | 増加している | 緩やかに増加している | 雇用情勢をみると、労働需給は改善している。こうしたもとで、雇用者所得も改善の動きがみられている |
中国 | 増加している | 非製造業を中心に持ち直している | 底堅く推移している | 増加している | 緩やかに増加している | 雇用情勢をみると、緩やかに改善している。雇用者所得は、弱めの動きとなっているものの、持ち直しに向けた動きが広がっている |
四国 | 増加している | 持ち直している | 緩やかに持ち直している | 増加している | 緩やかに持ち直しつつある | 雇用・所得情勢については、労働需給は改善しており、雇用者所得にも持ち直しの動きがみられている |
九州・沖縄 | 大幅な増加を続けている | 非製造業を中心に持ち直している | 消費者マインドの改善などから、持ち直しの動きがみられている | 低金利を背景とした潜在需要の掘り起こしに加えて、消費税率引き上げ前の駆け込みもあって、着実に増加している | 一部で生産体制の見直し等の影響もあって、緩やかな増加の動きに一服感がみられる | 雇用・所得情勢は、厳しい状態が続いているが、労働需給面では、非製造業を中心に改善している |
II. 地域の視点
各地域における最近の雇用・賃金動向 ——人手不足感が強まるもとでの企業の対応——
最近の各地域の雇用・賃金動向をみると、労働需給が全国的に改善傾向にあるほか、賃金についても都市圏を中心に持ち直しの動きがみられている。この間、有効求人倍率は、北海道、東北、北陸、四国、九州・沖縄ではリーマン・ショック前を上回る水準となっている。
求人動向をみると、求人数は非製造業が引き続き増加していることに加え、製造業でも増加に転じている。非製造業は、非正規労働者が中心ながら、幅広い業種で求人が増加している。堅調な内需を背景に建設や個人消費の関連業種の求人が多くの地域で増加しているほか、医療・福祉、運輸、IT関連、金融などの幅広い業種においても、即戦力重視の中途採用に加え、新卒採用も積極化する動きがみられている。また、製造業では、一部の電気機械等で国内生産体制の縮小・再編を図る動きが継続しているものの、自動車等で増産対応のための期間従業員等を大量採用しているほか、スマートフォン向け電子部品等でも採用を増やしている。このほか、省エネ技術など成長分野への投資や事業領域拡大に向け、技術系を中心に正社員の採用に注力する動きもみられている。
一方、求職動向をみると、企業の雇用調整圧力が弱まる中で、求職者の就職が進展していることから、求職者数は全体として減少傾向にある。加えて、団塊世代の本格退職や少子化の進展で労働力人口が減少しているほか、若年層の能力開発の遅れ、就業意欲の低さなど求職者の質の低下を指摘する声も少なくなく、労働供給余力の低下を懸念する声も聞かれ始めている。この間、最近の特徴として、在職者がより良い労働条件やキャリアアップを求めて転職活動を行う動きや、主婦や無業者が求人企業側から提示される就労条件の多様化や職種の増加に触発されて求職を始める動きが活発となっている。
こうした労働需給を反映して、業種や企業規模、地域を越えた人材獲得競争が激化しているほか、様々な雇用ミスマッチも顕在化しており、一部の企業からは必要な人員を確保できないといった声が聞かれるなど、企業の人手不足感が強まっている。特に、賃金や就労条件でミスマッチの大きな業種・職種や、知名度・待遇面で大企業に見劣りする中小企業などでは、人材確保が困難化しており、時間外労働や休日出勤等で凌いでいるとの声が強まっている。また、建設、医療・福祉、小売、製造業等で必要な人材を確保できず、工期の遅延や事業の縮小、新規出店計画の見直し、受注・生産の制限等を余儀なくされるなど、人手不足が事業活動のボトルネックになる事例がみられ始めており、特に東日本大震災の被災地等では顕著となっている。
こうした状況下、人手不足感の強い業種を中心に、求職者の実情に合わせて採用要件を緩和・弾力化する動きや、未経験者の資格取得支援などを前提とした育成型採用に転換する動きが広がっている。このほか、非正規労働者の正社員化により現有戦力を一層活用する動きや、就労条件の多様化により従業員の定着促進を図る動きも進みつつある。
また、女性、高齢者、外国人の活用を積極化・多様化する動きが広がっている。すなわち、女性については、女性のニーズを意識した営業・研究開発分野などでの活用、管理職への登用が進みつつある。高齢者に関しては、技能継承を企図して定年後も継続雇用する動きが広範化していることに加え、雇用期間の再々延長や退職後の復職雇用を図るなど、労働力としてなお依存せざるを得ない状況もうかがわれる。外国人についても、製造業の増産要員に加え、インバウンド観光対応や海外事業強化などを企図して、戦略的に外国人留学生や現地採用者を活用する動きが広がっている。
この間、公的機関や民間企業等では、雇用ミスマッチの改善に向けて、求職者に対する支援の一層の充実を進めている。
賃金動向をみると、正社員の定例給与を改定して賃金を引き上げる動きは、現時点では一部にとどまっている。もっとも、時間外給与については、製造業の生産回復や非製造業の人手不足を補うために増加しているほか、冬季賞与についても、企業業績の改善に伴い増額する動きが地域・業種を問わず広がっている。また、非正規労働者の時給については、建設労働者やシステムエンジニア、小売、宿泊・飲食サービスのパート・アルバイト、製造業の期間従業員等で、労働需給の引き締まりや最低賃金の改定等を背景に上昇しているとの指摘が聞かれている。この間、直接的な給与支給だけでなく、福利厚生の拡充・復活により処遇を改善する動きもみられている。
先行きの雇用についてみると、経営合理化を進めている製造業や消費増税後の反動減の影響を懸念する企業の一部では採用抑制姿勢をみせているものの、新規出店要員の確保や団塊世代の退職者補充、技能継承の必要もあって、採用を積極化する企業が増加していることから、当面は労働需給の改善傾向が続くとの見方が多い。
賃金の引き上げについては、景気回復の持続性や他社の動向を見極めたい、あるいは固定費の増加は回避したいなどとする声が多い一方で、従業員の士気向上や人材確保等を目的に、何らかの形での対応を前向きに検討する動きも広がりつつある。
日本銀行から
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