地域経済報告 ―さくらレポート―(2015年7月)※
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2015t年7月6日
日本銀行
目次
- III.地域別金融経済概況
- 参考計表
I. 地域からみた景気情勢
各地の景気情勢を前回(15年4月)と比較すると、8地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)で、景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしているほか、北海道からは、生産の増加などを踏まえて判断を引き上げる報告があった。
各地域からの報告をみると、内外需要の緩やかな増加を反映して生産が持ち直している中で、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、全ての地域で、「緩やかに回復している」、「回復している」等としている。
15/4月判断 | 前回との比較 | 15/7月判断 | |
---|---|---|---|
北海道 | 一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに回復している | 緩やかに回復している | |
東北 | 緩やかに回復している | 緩やかに回復している | |
北陸 | 回復している | 回復している | |
関東甲信越 | 緩やかな回復を続けている | 緩やかな回復を続けている | |
東海 | 着実に回復を続けている | 着実に回復を続けている | |
近畿 | 回復している | 回復している | |
中国 | 緩やかに回復している | 緩やかに回復している | |
四国 | 緩やかな回復を続けている | 緩やかな回復を続けている | |
九州・沖縄 | 緩やかに回復している | 緩やかに回復している |
- (注)前回との比較の「」、「」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「」となる。
公共投資は、東北、関東甲信越から、「緩やかに増加している」、「足もと増加している」との報告があったほか、近畿、四国から、「高水準で横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。一方、5地域(北海道、北陸、東海、中国、九州・沖縄)からは、「高水準で推移しているものの、減少している」等の報告があった。
設備投資は、3地域(北海道、北陸、東海)から、「一段と増加している」、「大幅に増加している」、3地域(東北、関東甲信越、近畿)から、「緩やかに増加している」、「増加している」との報告があったほか、3地域(中国、四国、九州・沖縄)から、「底堅く推移している」、「持ち直している」等の報告があった。この間、企業の業況感については、「改善している」、「総じて良好な水準が維持されている」等の報告があった。
個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」との報告があった。
大型小売店販売額をみると、多くの地域から、「堅調に推移している」、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があった。
乗用車販売は、「軽自動車を中心に弱めの動きとなっている」、「改善の動きに鈍さがみられている」等の報告があった一方、「底堅く推移している」等の報告があった。
家電販売は、「改善の動きに鈍さがみられている」との報告があった一方、「底堅く推移している」、「緩やかに持ち直しつつある」、「緩やかに回復している」等の報告があった。
旅行関連需要は、「国内旅行を中心に底堅く推移している」、「堅調に推移している」等の報告があった。この間、複数の地域から、外国人観光客が引き続き増加している等の報告があった。
住宅投資は、近畿から、「全体として弱めの動きとなっている」との報告があった一方、3地域(北海道、中国、九州・沖縄)から、「下げ止まっている」等、3地域(北陸、関東甲信越、東海)から、「持ち直しつつある」との報告があった。この間、東北、四国から、「高水準で推移している」、「底堅く推移している」との報告があった。
生産(鉱工業生産)は、内外需要の緩やかな増加を背景に、4地域(北海道、北陸、東海、近畿)から、「高水準で推移している」、「増加している」等、3地域(関東甲信越、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があった。この間、東北、中国から、「横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。
主な業種別の動きをみると、電子部品・デバイス、電気機械は、「高めの操業を続けている」、「緩やかに増加している」等、化学は、「増加している」等の報告があった。一方、鉄鋼は、「操業度を引き下げている」等の報告があった。この間、はん用・生産用・業務用機械は、「減少している」等の報告があった一方、「増加している」等の報告もみられたほか、輸送機械も、「減産の動きが続いている」等の報告があった一方、「全体として高操業となっている」等の動きがみられるなど、区々の動きとなっている。
雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。
雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は着実な改善を続けている」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「着実に持ち直している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。
需要項目等
公共投資 | 設備投資 | 個人消費 | 住宅投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 高水準で推移しているものの、減少している | 景気が緩やかに回復する中、売上や収益が改善するもとで、一段と増加している | 雇用・所得環境が着実に改善する中、消費者マインドが徐々に明るくなっていることから、回復している | 下げ止まっている | 堅調な海外需要を背景に、増加している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善している。雇用者所得は回復している |
東北 | 震災復旧関連工事を主体に、緩やかに増加している | 緩やかに増加している | 底堅く推移している | 災害公営住宅の建設等から、高水準で推移している | 横ばい圏内の動きとなっている | 雇用・所得環境は、改善している |
北陸 | 減少傾向にある | 製造業を中心に一段と増加している | 持ち直している | 持ち直しつつある | 高水準で推移している | 雇用・所得環境は、着実に改善している |
関東甲信越 | 足もと増加している | 増加している | 底堅く推移している | 持ち直しつつある | 持ち直している | 雇用・所得情勢は、労働需給が着実な改善を続けているもとで、雇用者所得も緩やかに増加している |
東海 | 高水準ながらも、減少傾向にある | 大幅に増加している | 雇用・所得環境が着実に改善する中で、持ち直している | 持ち直しつつある | 緩やかに増加している | 雇用・所得情勢は、着実に改善している |
近畿 | 高水準で横ばい圏内の動きとなっている | 増加している | 一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境などが改善するもとで、全体としては堅調に推移している | 全体として弱めの動きとなっている | 前期大幅増加の反動がみられるものの、増加傾向が続いている。この間、在庫は減少傾向となっている | 雇用情勢をみると、労働需給が改善を続けるもとで、賃金も前年を上回っていることから、雇用者所得は一段と改善している |
中国 | 減少しつつある | 持ち直している | 底堅く推移している | 下げ止まっている | 全体として横ばい圏内の動きとなっている | 雇用情勢は、着実に改善している。雇用者所得は、着実に持ち直している |
四国 | 高水準で推移している | 底堅く推移している | 緩やかに持ち直している | 底堅く推移している | 緩やかに持ち直している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は改善しており、雇用者所得も緩やかに持ち直している |
九州・沖縄 | 高水準ながら緩やかに減少している | 着実に持ち直している | 一部に弱めの動きがみられるものの、雇用・所得環境が着実に改善するもとで、このところ消費者マインドにも改善の動きがみられており、全体としては持ち直しつつある | 下げ止まっており、持ち直しに向けた動きもみられている | 自動車や鉄鋼において減産の動きが続いているものの、全体としては持ち直している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善しており、雇用者所得も緩やかに持ち直している |
II.地域の視点
各地域における消費関連企業の最近の販売動向と事業戦略
1.消費関連企業の最近の販売動向
(1)全体感
各地域における消費関連企業の販売動向をみると、昨年の消費税率引き上げ後は駆け込み需要の反動の影響等から低迷していた先が少なくなかったが、足もとにかけては、雇用・所得環境の改善や株価上昇による資産効果等に加え、訪日外国人需要の増加もあって、売上が持ち直しに転じる先が着実に増加しており、業態や地域等でばらつきを伴いながらも、全体としては緩やかな改善基調にある。
主要業態別には、百貨店は、富裕層や訪日外国人における高額品を中心とした堅調な需要を主因に、多くの先で販売が緩やかに増加している。また、食品スーパーでは、高品質の生鮮食品や総菜を中心に売上を伸ばしている先が多く、コンビニエンスストアも、新規出店や高付加価値商品投入の効果等から増加しているとの声が聞かれる。さらに、家電量販店は、省エネ・高機能製品等の販売が堅調となる中で、訪日外国人需要が売上全体を押し上げている先も少なくない。この間、宿泊は、ガソリン安の効果や海外旅行からのシフト、訪日外国人客の増加等を背景に好調となる先が多く、飲食でも、高単価ながら高付加価値のメニューを提供する先を中心に堅調に推移している先が少なくない。
一方、自動車販売店は、新型車や高級車は堅調ながら、軽自動車を中心にその他の車種の不振が続いており、全体では弱めの動きとなっている先が多い。また、総合スーパーでも、他業態への客離れが進む衣料品や日用品等を中心に、厳しさが残っているとの指摘が聞かれる。
地域別にみると、都市部の店舗は、高品質・高付加価値品への需要拡大等から、総じて改善基調にある一方、郊外・地方圏の店舗は、資産効果や所得改善効果が限定的なうえ、大都市やEコマースへの消費流出もあって、持ち直しの動きは鈍いとの声が多い。
(2)最近の販売動向にみられる特徴点
この間の販売動向における特徴としては、高品質・高付加価値の商品・サービスに対して需要が足もと着実に増加していることを挙げる声が多い。この背景としては、以下のような指摘が聞かれている。
イ.富裕層・シニア層における資産効果を背景とした堅調な支出意欲
- 宝飾品、高級自動車など高額品に対する富裕層・高所得者層の購入意欲や、旅行、飲食など高付加価値サービスに対するシニア層の支出姿勢は、消費増税後には幾分弱まる面もみられたが、昨年後半以降の株価上昇に伴う資産効果もあって、このところ再び強まっているとの声が多い。
ロ.勤労者世帯の一部における消費の持ち直し
- 勤労者世帯では、消費増税後に節約志向が少なからず強まったが、足もとは、所得改善効果の大きい層を中心に、非日常的なイベント・サービス(ハレ消費・コト消費)に加え、生鮮食品等の生活必需品でも、価格が高めであっても品質や付加価値を重視する姿勢が強まっているとの指摘が多く聞かれる。
ハ.旺盛な訪日外国人需要
- 百貨店や家電量販店、宿泊を中心に、訪日外国人客の高単価商品・サービスに対する支出意欲は旺盛であり、売上全体を押し上げているとの声が多い。
一方、汎用的な商品・サービスでは、所得改善効果の小さい層を中心に節約志向が根強いこともあって、低価格訴求型の業態・店舗が選好される傾向が続いているとの指摘が多い。
2.最近の消費関連企業の販売戦略・価格設定行動
(1)売上増強に向けた販売戦略
以上の状況のもとでの消費関連企業の販売戦略をみると、従来の低価格戦略による需要の掘り起こしに行き詰まり感が生じている先が少なくない中で、当面の売上増強を図るべく、価格よりも品質や付加価値等を重視する消費者の需要獲得に向けた施策に取り組む動きが広がっている。
その際の具体策としては、(イ)競争力のある高品質・高付加価値の商品・サービスの積極的な投入、(ロ)新たな魅力を備える形での店舗や施設の改装、(ハ)Eコマースの展開を通じた販売チャネルの拡充、(ニ)移動販売や宅配サービス、特定地域への高密度出店、免税店の拡充等による利便性の向上など、価格面以外での差別化を図ることにより需要の獲得を進める先が多くみられる。特に最近では、消費増税後に売上の低迷が続いた先が多いこともあって、こうした施策の展開に当たって、業態を問わず、目先の需要拡大が見込めるシニア層や訪日外国人を主たるターゲットとする先が増加しているのが目立っている。
また、このような当面の売上増強策に加え、中長期的には少子高齢化に伴い国内需要が減少していくとの見方のもとで、今後の生き残りに向け、(イ)将来の主要顧客となり得る若年層やファミリー層へのアプローチ強化、(ロ)新規事業への参入や企業間での連携・統合、(ハ)域外や海外の需要取り込み等に取り組む先が少なからずみられる。そうした中で、現状でも深刻化している人手不足が、先行きの事業展開に際しての制約要因となることを懸念する声も聞かれる。
(2)価格設定行動
この間の企業の価格設定行動をみると、消費増税後に売上が低迷する局面では、ひと頃みられた価格引き上げの動きは一服した。もっとも、足もとでは、食品スーパーや宿泊・飲食を中心に、このところの高品質・高付加価値の商品・サービスに対する需要の持ち直しも受け、原材料価格の高騰や人件費の増加など既往のコスト増加を吸収する観点から、商品の品質・量やサービスの内容等を必要に応じて見直しつつ、戦略的に値上げに踏み切る動きが着実に広がっている。また、百貨店や専門店等でも、セール期間の短縮等により値引き販売を極力抑制する先がみられるようになっている。
このような価格の引き上げについては、これまでのところ目立った売上の減少には繋がっておらず、消費者に概ね受け入れられていると評価する先が大方を占めている。さらに、こうした状況を眺め、一部には、今後の売上動向を見極めつつ、価格のさらなる引き上げを模索する動きもみられている。
一方、需要に力強さがなく、競争環境も厳しい汎用的な商品・サービスに関しては、消費者の低価格志向が依然として根強く、各種コストが膨らむ中でも、価格の引き上げには慎重とならざるを得ないとする先が多い。このため、総合スーパーやディスカウントショップ、ドラッグストアを中心に、これまでの低価格路線を維持したり、一部には一段と強化する動きがみられている。
3.先行きの見通し
消費関連企業の先行きの販売については、雇用・所得環境の改善を背景に、当面は売上の持ち直しが続くとする先が多く、全体としても現状の緩やかな改善基調が続くものとみられる。ただし、さらなる価格引き上げの動きが消費者マインドの悪化に繋がる可能性を懸念する声も一部に聞かれるだけに、今後の消費関連企業の販売動向や戦略に引き続き注視していく必要がある。
日本銀行から
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