地域経済報告―さくらレポート―(2017年1月)*
- 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2017年1月16日
日本銀行
目次
- III.地域別金融経済概況
- 参考計表
I.地域からみた景気情勢
各地域からの報告をみると、東海で、「緩やかに拡大している」としているほか、残り8地域では、「緩やかな回復基調を続けている」等としている。この背景をみると、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、所得から支出への前向きな循環が働いていることなどが挙げられている。
各地の景気情勢を前回(16年10月)と比較すると、3地域(東北、関東甲信越、東海)から、判断を引き上げる報告があった。この背景をみると、3地域とも、昨年初以降の株価下落や夏場の天候不順の影響が薄れたこと等から、個人消費の判断を引き上げているほか、東北、関東甲信越では、新興国経済の減速の影響が和らいでいること等から、生産についても判断を引き上げている。一方、残り6地域では、景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしている。
【16/10月判断】 | 前回との比較 | 【17/1月判断】 | |
---|---|---|---|
北海道 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
東北 | 生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている | ![]() |
緩やかな回復基調を続けている |
北陸 | 一部に鈍さがみられるものの、回復を続けている | ![]() |
回復を続けている |
関東甲信越 | 輸出・生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、緩やかな回復を続けている | ![]() |
緩やかな回復基調を続けている |
東海 | 幾分ペースを鈍化させつつも緩やかに拡大している | ![]() |
緩やかに拡大している |
近畿 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
中国 | 緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
四国 | 緩やかな回復を続けている | ![]() |
緩やかな回復を続けている |
九州・沖縄 | 熊本地震の影響が和らぐもとで、緩やかに回復している | ![]() |
緩やかに回復している |
- (注)前回との比較の「
」、「
」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「
」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「
」となる。
公共投資は、3地域(北海道、北陸、関東甲信越)が「増加」という表現を用いているほか、東北は「高水準で推移」としている。また、四国が「持ち直し」という表現を、3地域(東海、近畿、中国)が「下げ止まり」という表現を、それぞれ用いている。一方、九州・沖縄では「持ち直しの動きが一服している」としている。
設備投資は、7地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国)が「増加」という表現を用いている。一方、2地域(北海道、九州・沖縄)では、「高めの水準ながら減少している」等としている。
この間、企業の業況感については、5地域(北陸、東海、近畿、中国、九州・沖縄)が「改善」という表現を用いているほか、3地域(北海道、東北、関東甲信越)が「横ばい」等という表現を用いている。また、四国が「総じて良好な水準を維持しているが、製造業を中心にやや慎重な動きもみられる」としている。
個人消費は、近畿が「一部に弱めの動きもみられる」としつつも、全体としては、2地域(北海道、九州・沖縄)が「回復」という表現を、3地域(北陸、東海、四国)が「持ち直し」という表現を、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)が「底堅く推移している」という表現を、それぞれ用いている。
百貨店販売額は、「高額品販売を中心に弱めの動きがみられる」、「衣料品を中心にやや弱めの動きとなっている」等の報告が引き続きみられたものの、昨年初以降の株価下落や夏場の天候不順の影響が薄れたこと等から「前年割れの状況が続いているが、秋口頃に比べると、マイナス幅が幾分縮小しつつある」、「持ち直している」、「底堅く推移している」等の報告があった。また、スーパー販売額は、天候不順の影響が薄まったこともあり、多くの地域から、「堅調に推移している」、「持ち直している」等の報告があった。このほか、コンビニエンスストア販売額は、多くの地域から「増加している」、「堅調に推移している」等の報告があった。
乗用車販売は、多くの地域から、新型車投入効果もあって「持ち直している」等の報告があった。
家電販売は、「堅調な動きが続いている」、「底堅く推移している」等の報告があった一方、「前年を下回っている」等の報告がみられるなど、地域によって区々となっている。
旅行関連需要は、多くの地域から、国内旅行を中心に「堅調となっている」、「底堅く推移している」等の報告があった一方、「弱めの動きとなっている」等の報告もあった。この間、外国人観光客は、引き続き「増加している」との報告があった。
住宅投資は、3地域(北陸、中国、九州・沖縄)が「増加」という表現を用いているほか、東北が「高水準で推移している」としている。また、5地域(北海道、関東甲信越、東海、近畿、四国)が「持ち直し」という表現を用いている。
生産(鉱工業生産)は、4地域(北陸、東海、近畿、九州・沖縄)が「増加」という表現を、東北が「持ち直し」という表現をそれぞれ用いている。また、3地域(北海道、関東甲信越、中国)が「横ばい」という表現を用いている。一方、四国は「持ち直しが一服している」としている。
雇用・所得動向は、全ての地域が「改善している」等としている。
雇用情勢については、全ての地域が「労働需給が着実な改善を続けている」、「引き締まっている」等としている。雇用者所得についても、全ての地域が「改善を続けている」、「緩やかに増加している」等としている。
需要項目等
公共投資 | 設備投資 | 個人消費 | |
---|---|---|---|
北海道 | 緩やかに増加している | 高水準ながらも弱めの動きがみられる | 雇用・所得環境が着実に改善していることを背景に、回復している |
東北 | 震災復旧関連工事を主体に、高水準で推移している | 緩やかに増加している | 底堅く推移している |
北陸 | 振れを伴いつつも、基調としては増加している | 需要好調業種の能力増強投資や小売の新規出店投資に加え、電力・ガスのインフラ投資もあって、着実に増加している | 雇用・所得環境の着実な改善に加え、マインド面の好転もあって持ち直している |
関東甲信越 | 増加している | 増加している | 底堅く推移している |
東海 | 下げ止まっている | 大幅に増加している | 持ち直しつつある |
近畿 | 下げ止まっている | 増加基調にある | 一部に弱めの動きもみられるが、雇用・所得環境が改善するもとで、底堅く推移している |
中国 | 下げ止まっている | 緩やかに増加している | 底堅く推移している |
四国 | 持ち直している | 一部で投資の先送りや遅延の動きがみられるものの、基調としては緩やかに増加している | 緩やかに持ち直している |
九州・沖縄 | 持ち直しの動きが一服している | 大型投資の一巡もあって、高めの水準ながら減少している | 観光面の回復ペースは幾分鈍化しているものの、被災地における耐久財を中心とした買い替え需要が続いていることなどから、全体として回復しつつある |
住宅投資 | 生産 | 雇用・所得 | |
---|---|---|---|
緩やかに持ち直している | 概ね横ばいとなっている | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善している。雇用者所得は回復している | 北海道 |
高水準で推移している | 緩やかに持ち直している | 雇用・所得環境は、改善している | 東北 |
貸家を中心に前年を上回るなど、増加している | 緩やかに増加している | 雇用・所得環境は、着実に改善している | 北陸 |
着実に持ち直している | 横ばい圏内の動きとなっている | 雇用・所得情勢は、労働需給が着実な改善を続けているもとで、雇用者所得も緩やかに増加している | 関東甲信越 |
振れを伴いつつも、持ち直しの動きが続いている | 緩やかに増加している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給が引き締まっているほか、雇用者所得は改善を続けている | 東海 |
持ち直している | 緩やかに増加している | 雇用・所得環境をみると、労働需給が改善を続けるもとで、雇用者数は増加しており、雇用者所得も緩やかに増加している | 近畿 |
緩やかに増加している | 横ばい圏内の動きとなっている | 雇用・所得環境は、着実な改善を続けている | 中国 |
持ち直している | 持ち直しが一服している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに持ち直している | 四国 |
増加している | 被災地における挽回生産などが継続する中、海外向けの増産が牽引するかたちで、着実に増加している | 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善しており、雇用者所得は振れを伴いつつも持ち直している | 九州・沖縄 |
II.地域の視点
各地域における住宅投資の動向と関連企業等の対応状況
1.各地域における最近の住宅投資の動向とその背景
(1) 概要
- 各地域の住宅投資(着工ベース)は、全体として持ち直しを続けているとみられる。利用関係別にみると、貸家は、堅調に増加しているとする先が多い。また、持家は、2014年4月の消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減で落ち込んだ水準に比べると改善してきているとする先が多い。分譲戸建は、多くの先が緩やかに持ち直しているとしている。一方、分譲マンションは弱めの動きとなっているとする先が目立つ。
(2) 利用関係別の着工動向の特徴とその背景
- 利用関係別の着工動向の特徴とその背景は以下のとおり。
- (1)持家
- 全国的に、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減で落ち込んだ水準に比べると改善してきているとする先が多い。この理由としては、雇用・所得環境の改善、住宅ローン金利の低下、住宅資金贈与の非課税制度等が指摘されており、従来は持家に手が届かなかった若年層等へと購買層が広がりつつあるとの声も多い。ただし、一部の先からは、消費税率の再引き上げの延期で顧客の購入を促す要因が減り、商談が長引いているとの声も聞かれている。この間、リフォーム需要も、高齢化に伴うバリアフリー化のニーズの高まり等を背景に、売上全体に占めるシェアは小さいながらも増加しているとの声が聞かれている。
- (2)貸家
- 都道府県単位でみると、人口が減少に転じている地方も含めて、幅広い地域で着工が増加しているとの声が聞かれている。この背景をみると、東京等の大都市だけでなく地方でも、都市部や、郊外にある工場の近隣など、単身世帯等が増加しているエリアがあり、そうしたエリアを中心に、入居需要への期待と相続税節税や低金利下での資産運用ニーズとが相俟って地主等が積極的に貸家経営に乗り出しているとの声が多い。加えて、こうした「追い風」を背景に、貸家の建築請負・サブリースを手がける業者が積極的な営業スタンスにあることも、着工を後押ししているとの声が多い。
- ただ、半面では、多くの地主等が短期間のうちに貸家経営に乗り出した結果、貸家市場全体でみると、需給が緩みつつあるとの声が聞かれている。実際、賃貸物件の仲介業者等からは、郊外の築古物件など相対的に魅力の乏しい物件を中心に、空室率の上昇や家賃の下落がみられるとの声が聞かれている。
- この間、企業からは、金融機関の貸家向けの融資姿勢は積極的との声が多く聞かれているが、一部には供給過剰懸念から慎重化しつつあるとの声もある。
- (3)分譲(マンション)
- 東京など大都市の中心部では、用地取得費の上昇等に伴う物件価格の上昇により販売が減速するもとで、新規の着工は、用地取得難もあって弱めとなっているとの声が多い。一方、地方では、販売価格の上昇が比較的緩やかなもとで、高齢者を中心に郊外の持家から利便性の高い都市部のマンションへ住み替える動きがみられており、販売・着工ともに底堅く推移しているとの声が多い。
- (4)分譲(戸建)
- 販売・着工とも、住宅ローン金利の低下等に伴い、若年層等へ購買層が広がりつつある中で、幅広い地域で緩やかに持ち直しているとの声が多く聞かれている。また、価格上昇が目立つ大都市中心部のマンションを諦め、割安感のある郊外の分譲戸建を購入する動きがみられるとの声も聞かれている。
- (1)持家
2.先行きの住宅投資の見通し
- 先行きも、各地域の都市部を中心に世帯数の増加が続く中で、緩和的な金融環境、相続税節税ニーズ等の「追い風」に加え、住宅関連企業が環境性能・耐震性に優れた住宅や低価格住宅の提供等により需要の掘り起こしに注力していることもあって、住宅投資は持ち直しが続くと見込む先が多い。
- このうち貸家については、地主等の節税志向や資産運用ニーズの高まりに加え、建築請負・サブリース業者等の積極的な営業もあって、当面は堅調に推移するとの声が多く聞かれている。ただし、都市部で貸家建設に適した遊休地が少なくなっていることや、郊外を中心に供給過剰感が高まりつつあることを理由に、先行きを慎重にみる先が徐々に増えつつあるようにうかがわれる。
3.住宅関連企業にとっての経営課題等
- 関連企業に経営課題を伺うと、足もとでは、職人不足を指摘する声が多い。こうした中、自社内での職人育成やプレカット部材の活用による省力化等の取り組みがみられているが、課題解決には至っていないとする先が多い。
- 中長期的には、世帯数の減少に伴い新築需要の縮小が避けられないとみる先が多い。一方で、既存物件のリフォーム・リノベーション需要は、空き家の有効活用に向けた機運の高まりもあり、今後の更なる増加に期待が寄せられている。こうしたもとで、多くの先では、既存物件のリフォーム・リノベーション事業の強化が課題として、専担部署の設置等の体制整備に取り組んでいる。この間、今後の更なるリフォーム・リノベーション需要の喚起のためには、中古住宅について、資産価値が適正に評価される仕組みを作り、適正価格での売買を容易にしていく必要があるとの声が多く聞かれている。
日本銀行から
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