地域経済報告―さくらレポート―(別冊シリーズ)* 地域の企業における人材確保に向けた取り組み
- 本報告は、上記のテーマに関する支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2023年6月9日
日本銀行
【要旨】
わが国の企業の人手不足感は強まっている。特に若年層、DX人材などの専門人材、宿泊・飲食等の対面型サービス業に従事する人材などの不足感を指摘する声が多い。主な背景として、(1)経済活動の改善が進む一方、追加的な労働供給余地が縮小していることもあって、マクロでみた労働需給がタイト化していることに加え、(2)デジタル化・脱炭素化といった事業環境の変化に対応するための専門人材の需要拡大や新型コロナ禍を契機とした労働者側の就業意識の変化によるミスマッチの拡大、が指摘されている。こうした中で、転職が増加したことも、採用面の競争力に不安を抱く企業を中心に、人手不足感を強める一因となっている。この間、宿泊・飲食を中心に需要取りこぼしなど事業への影響が現に生じているほか、幅広い業種で先行きの事業展開が制約されることへの懸念も高まっている。
こうした中、企業は、人材の確保のため、様々な取り組みを行っている。具体的には、第1に、賃上げを中心とした処遇改善である。この点、中小企業を中心に、収益面・財務面の厳しさから賃上げに慎重な声は相応に聞かれるが、パート時給の上昇や大企業等の大幅な賃上げを受け、収益面等の余裕が乏しいとする企業を含め、賃上げに踏み切る動きが広がっている。また、賃上げ原資確保のための値上げもみられ始めている。この間、賃上げの持続性に関しては、コスト負担が意識されるもとで、本年度に限った一時的な対応となる可能性を指摘する声がある一方、先行きも人口減少が続くとみて、人材確保のためには継続的な賃上げが必要との声も聞かれている。第2に、経験者採用や副業・兼業人材の登用の拡大、一度退職した人材の復職の推進、シニア層の一段の活躍推進、外国人採用の強化など人材獲得チャネルの多様化が模索されている。第3に、収益力の向上を伴う継続的な賃上げを目指す企業では、ジョブ型雇用の導入などの人事制度改革を進める動きや、リスキリング等による従業員の能力開発を支援する動きもみられている。
先行きも、人口動態の変化等を踏まえると、人手不足感が高まりやすい環境は続くと見込む声は多い。こうしたもとで、足もと窺われる企業の賃金・価格設定スタンスの変化が定着していくか、慢性的な人手不足のもとでの労働力の新規掘り起こしや高生産性部門へのシフト、従業員の能力向上等の動きが広まり、収益力の向上につながっていくか――産学官金の連携等が、こうした動きをサポートしていくことができるか――といった点に注目していく必要がある。
日本銀行から
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