地域経済報告―さくらレポート―(別冊シリーズ)* 地域の中堅・中小企業における賃金動向―最近の企業行動の変化を中心に―
- 本報告は、上記のテーマに関する支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。
2024年7月12日
日本銀行
要旨
地域の中堅・中小企業へのヒアリングによると、今年の賃金動向については、昨年を上回るあるいは高水準であった昨年並みの賃上げの動きに広がりがみられている。こうした賃金動向の背景としては、(1)物価上昇を受けた従業員の生活への配慮、(2)競合他社や大企業等との人材獲得競争、(3)業績の回復・好調、(4)効率化や生産性向上の取り組みの進捗などが指摘されている。
また、年齢層や専門性等による賃上げ率のメリハリ付けや、賃上げとセットでの労働環境の改善や福利厚生面の充実など、経営の基盤となる人的資源を巡っては多様な取り組みがみられている。
ヒアリングでは、中堅・中小企業が直面する環境の厳しさを指摘する声も少なくなかった。すなわち、(1)原資が十分でない中でも人材の確保・係留を優先した「防衛的な賃上げ」を実施、(2)賃上げの一方で、給与カーブのフラット化などにより総人件費上昇を抑制、(3)収益不芳や原資不足で賃上げを見送り、といった企業も相応に存在することが確認された。賃上げの動きが広がるもとで、企業間の格差・ばらつきも大きくなっている。
また、人手不足は一過性のものではなく、今後も継続して賃上げを実施することが必要との認識も深まっている。このことは、以下のように、賃上げ原資の確保も見据えた企業行動を促している。
第1に、価格設定スタンスの変化である。今年の賃上げに関しては、既往の原材料コスト等の価格転嫁の進捗が賃上げ原資の確保につながったという声が多い。
この間、賃金上昇を価格に転嫁する動きについては、人件費の価格転嫁は難しいとする企業はなお少なくないものの、非製造業では、サービス業など、人件費比率が高い業種や人手不足感の強い業種を中心に、転嫁を実施・検討する動きに広がりがみられている。製造業についても、最近の政府の後押しもあって、価格転嫁が進めやすい環境に向かいつつあるとの声が聞かれた。
第2に、生産性の向上に向けて、設備投資やAIなどのデジタル活用が活発化している。ただし、専門人材やノウハウの不足、財務面の弱さなどが、投資の制約になる事例も増えており、今後注意が必要である。
第3に、事業再構築、他社や大学等との連携強化、M&Aなど、経営の持続性や成長力を高めるための抜本的な経営変革の動きも徐々に増えている。
今後の賃金動向とともに、こうした企業行動の変化が着実に続いていくか、さらに、それが地域経済にどのような影響を及ぼすかが注目される。
日本銀行から
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