このページの本文へ移動

欧州経済通貨統合(EMU)を巡る最近の動きについて

1997年 2月10日
日本銀行国際局

ご利用上の注意

以下には、全文の目次および冒頭部分(はじめに)のみを掲載しています。
全文(本文、図表)は、こちらから入手できます (ron9702a.lzh 160KB[MS-Word])。
なお、本稿は日本銀行月報3月号に掲載する予定です。

目次

  1. 1.はじめに
  2. 2.EMUの経済的意義
  3. 3.EMUにおける金融・財政政策の枠組み
  4. 4.EU主要国金融市場の競争力強化の動き
  5. 5.EMU実現後についての各種の見方
  6. 6.むすび
  7. (付1)EMUを巡るこれまでの経緯
  8. (付2)EMU第3段階移行プロセス
  9. (付3)欧州中央銀行・欧州中央銀行制度の概要
  10. (付4)EMIが示した各国中央銀行制度の要件
  11. 参考図表
    • (図表1)EU各国のEMU収斂基準参照値クリアー状況
    • (図表2)EU主要国のインフレ率
    • (図表3)EU主要通貨の対独マルク相場
    • (図表4)EU主要国の財政バランス見通し
    • (図表5)EU主要国の長期金利
    • (図表6)EU諸国の金融政策目標
    • (図表7)ECBの金融政策手段
    • (図表8)TARGETシステムの概要
    • (図表9)EU経済の鳥瞰図
    • (図表10)EMUを巡るこれまでの経緯
    • (図表11)単一通貨導入手順
  12. はじめに

     欧州連合(European Union<EU>)では、95年末にマドリッドで開催された欧州理事会(EUサミット)において、99年1月に単一通貨euroを導入し、経済通貨統合(EMU(注))の最終段階に移行することが確認され、さらに1年後の96年12月のダブリンでのEUサミットでは、移行に関連した制度的な枠組みの構築に向けた合意がなされるなど、EMU準備作業が着実に進捗している。

     EMUは、欧州の経済統合プロセスにおける、単一通貨の創出と、中央銀行制度の統合という、他に例をみない大掛かりな制度的変革を伴う壮大な試みである。本稿は、EMUが世界の経済・金融に与える影響の大きさに鑑み、その経済的意義、制度的枠組み等について整理し、併せて実現後の姿につき、大まかなイメージを描くことによって、今後の展開の方向性とそのインプリケーションを探る際の一助とすべく、包括的資料として作成したものである。予めその要旨を示せば以下のとおり。

    1. (1)EUでは、既に財・サービス貿易の自由化、労働・資本の移動自由化により、「単一市場」が発足済み(93年1月)であるが、今回のEMUは、そうした市場取引における為替関連の様々なコストを取り除くことにより、「単一市場」の一段の機能向上を企図するものと位置付けられる。目下、各国は、マーストリヒト条約(欧州連合条約)に定められたEMU第3段階への参加条件(通貨統合に向けて必要な経済状況の収斂基準)を満たすため、財政赤字削減等経済パフォーマンスの向上のための施策に取り組んでいる。
    2. (2)EMUは現在、準備過程である第2段階にあり、99年1月に単一通貨euroを導入し、新たに創設される欧州中央銀行(European Central Bank<ECB>)が一元的な金融政策の実行を開始することをもって最終段階(第3段階)へ移行する予定となっている。ECBは物価安定の維持を第一義的な目的とし、EU関係機関や各国政府からの高い独立性を有する旨、欧州中央銀行法で規定されており、各国は、第3段階移行までにそうしたECBのステータスと整合的となるよう、自国中央銀行の国内における独立性を法的に担保することが義務付けられている。
       一方、財政政策については、第3段階においてもこれまで通り各国がそれぞれ独自に運営することとなるが、そうした中で、各国の財政規律を維持するための「安定協定(Stability and Growth Pact)」が合意されている。
    3. (3)EMU第3段階移行に向けた各種制度面のインフラ整備も並行的に進められており、(a)既存契約の継続性等、euro導入に絡む法的枠組みの整備、(b)各国決済システムのRTGS(即時グロス決済)化とTARGET(Trans-European Automated Real-time Gross-settlement Express Transfer)システムを通じたリンケージ、(c)銀行券発行の準備、(d)各国統計の標準化等の検討が精力的に進められている。
    4. (4)こうした状況下、EU主要国の金融・資本市場では、将来のeuro導入を睨んで、当局・民間両サイドにおいて自国市場の競争力を向上させることを企図した動きが活発化している。とくに、英国が現状のまま通貨統合への参加を留保し続ける場合に、ロンドン市場の優位性に如何なるインパクトが及ぶかに関心が集まっている。
    5. (5)EMU実現後の欧州経済の姿について、現在のデータに基づいて大まかなイメージを描いてみると、将来仮にEU15か国が全てEMUに参加する場合には、名目GDPでみて、米国をやや上回り、対外取引でも米国に匹敵する規模のeuro通貨圏が誕生する計算となる。
    6. (6)今後のEMU実現プロセスにおいては、参加国(第1陣、および第2陣以降)の選定の仕方、およびeuroと各国通貨の交換レートの決定方式、さらには統合後のECBによる実際の政策運営スタンス、「安定協定」の運用状況等が注目点となろう。それらの要素が、期待通りにeuroが市場の信認を獲得する方向に作用する場合には、euro通貨圏の形成が円滑に進捗することとなるものとみられる。
    7. (7)近年、金融のグローバル化の進展とともに、各金融市場間で競争が行われ、その中で金融取引にかかる制度・インフラ(例えば、決済システム、中央銀行制度)のグローバル・スタンダードが形成される傾向を強めている。その意味で、わが国としては、今回規模を拡大して誕生するeuro通貨圏の動きを注意深く見守るとともに、わが国の金融制度・インフラを米国、EUに比べ遜色ない、魅力のあるものとしていく不断の努力が求められている。
    • (注)EMUの公式の呼称は、経済通貨統合(Economic and Monetary Union)である。この構想は、本稿の(付1)でみるように3つの段階から構成されているが(現在は第2段階)、第3段階が同構想の最終段階であり、また単一通貨が導入されることから、慣用的には、この段階への移行を単に「EMU」または「通貨統合」と呼称することも多い。

    以上