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最近の住宅投資動向について

1998年10月 6日
日本銀行調査統計局

日本銀行から

 以下には、要旨および(目次)を掲載しています。全文(本文、図表)はこちらから入手できます (ron9810a.pdf 258KB / ron9810a.lzh 180KB[MS-Word, MS-Excel])。

要旨

1.最近の住宅投資の動向をみると、96年後半に、消費税率引き上げ前の駆け込み需要もあって、大きく盛り上がった後、97年入り後は減少に転じ、現在まで低迷状態が続いている。新設住宅着工戸数(季節調整済み年率換算)は、本年7月には110万戸と、83年5月以来の低い水準まで落ち込んだ。これまで、住宅投資は金利水準によって大きな影響を受けていたことに鑑みると、最近の超低金利下における住宅投資の低迷は、やや異例とも言える。

2.過去における住宅投資の動向をみると、70年代初までは、住宅の絶対量がそもそも不足していた中で、ほぼ一貫して住宅投資の伸びがGDPの伸びを上回っていた。しかしながら、住宅のストックが少なくとも量的にはほぼ充足されるようになったと考えられる70年代後半以降、住宅投資は景気の状況等によって大きくマイナスにも振れるようになっている。

民間住宅投資とGDP

  • 1956年から1997年の民間住宅投資とGDPの実質値について、前年比の推移を並べたグラフ。詳細は本文の通り。

3.住宅投資のGDPに占めるウェイトは、最近では、5%程度であるが、住宅建築には製材、チップ、金属製品等の多くの材料や製品が用いられるため、生産波及効果が大きいことや、住宅購入後に耐久消費財を中心に付随的な消費がなされるケースが多いこと等を勘案すると、その経済全体に与える影響は、GDPに占めるウェイトでみる以上に大きいとみられる。したがって、景気動向を判断する上で、住宅投資の変動パターンを的確に分析することは、極めて重要である。

4.住宅投資に影響を及ぼすと考えられる要因としては、所得、金利、住宅資金のアベイラビリティー、住宅価格、住宅ストック、人口要因等がある。このうち、所得については、住宅投資が、長期にわたって住宅サービスの提供を受ける高価な財の購入という性格のものであることから、足許の可処分所得のみならず、将来の所得環境に対する家計の見方も影響すると考えられる。事実、バブル期とその後の崩壊期には、雇用・所得環境の見通しの変化とほぼ期を一にして住宅投資が変動している。金利については、これまで住宅投資に対し、住宅ローン金利が2四半期先行する形で、-0.4という比較的高い負の相関係数が得られている(=住宅ローン金利の低下は住宅投資を押し上げ)。住宅資金のアベイラビリティーを、事後的な計数から量ることは困難であるが、民間金融機関の住宅ローンに対する取組み姿勢は着実に強化されてきており、住宅資金の借入制約は徐々に小さくなっているとみられる。住宅価格が住宅投資に与える影響については、例えば、住宅価格が下落することは、新規需要を喚起する効果がある一方で、既存の住宅資産の目減りが、住宅投資に対し抑制的に働く面もあるとみられるように、一義的には決め難い。後者については、とくにバブル期に購入された首都圏マンションに係るキャピタル・ロスの発生が、現在買い替えの足かせとなっているケースが多いとみられる。住宅ストックについては、住宅の量的な充足が進んだ80年代以降、ストックの積み上りが住宅投資に抑制的に働くというストック調整メカニズムが働き始めている。人口要因については、世帯の増加数や人口の年齢構成が、住宅投資の中長期的トレンドを形成する要因として作用している。

5.最近の住宅投資の落ち込みの要因を定量的に測るため、新たな住宅投資関数を推計した。本関数は、住宅投資においては、家計が将来に亘って実現すると予想する所得、すなわち「恒常所得」が重要な要素となるとの考え方、および、足許の住宅ストック水準が家計が適正と考えるストック水準に向かって調整されていくという「ストック調整原理」を基にした。さらに、実質金利要因や人口要因(30〜49歳の人口比率)を加え、定式化した。今期の恒常所得は、前期末の非人的資産と今期の人的資産の合計であり、具体的には、非人的資産は、国民所得統計上の家計の正味資産を用いた。人的資産、すなわち今期以降獲得する所得の割引現在価値は、別途推計した時間選好率を基に、可処分所得の自己回帰過程を用いて試算した。推計結果をみると、全体としての説明力は7割強とまずまずである上、各変数の符号条件および有意性とも、概ね期待したとおりであった。すなわち、住宅投資に対し、恒常所得(非人的資産+人的資産)と30〜49歳の人口比率はプラス、住宅ストックと金利はマイナスに働くことが確かめられた。

住宅投資関数

HIt=b0+b1(NHWt-1+HWt)+b2kt-1+b3Rt+b4POP3049t+b5DUMMY+ut

HIt:実質民間住宅投資(千人当たり)
NHWt:実質非人的資産(千人当たり)
HWt:実質人的資産(千人当たり)
Kt:実質住宅ストック(千人当たり)
Rt:実質金利
POP3049t:30〜49歳の人口構成比率
DUMMY:1973〜74年に対するダミー変数

推計結果

  • 表

(注)

  • 推計期間:70〜97年。
  • ( )内は t 値。S.E.は方程式の推計誤差。D.W.はダービン・ワトソン比。

6.この関数を用いて最近の住宅投資の変動を要因分解すると、96年から97年にかけては、非人的資産と人的資産の合計で表わされる恒常所得要因が急速に落ち込み、住宅投資に対し大きくマイナスに寄与していることがわかった。このほか、金利要因の押し上げ寄与が96年に比べて小さくなったことや、96年に住宅ストックが積み上がった結果、ストック要因のマイナス寄与が拡大したことも、97年の住宅投資落ち込みの背景となった。なお、97年の推計値は実績値をかなり上回っており(逆に96年の推計値は実績値をかなり下回っている)、この点は、主に消費税導入前の駆け込み需要の反動減によるものと考えられる。

住宅関数の要因分解

  • 一人当たりの住宅投資の実質値の前年差(折れ線グラフ)を、非人的資産+人的資産、住宅ストック、実質金利、30から49歳の人口比率、の4変数の前年差(寄与度の積上げ棒グラフ)で説明することを試みたグラフ。1990年から1997年の年次計数。詳細は本文の通り。

7.以上のように、今回新たに推計した住宅投資関数によれば、97年における住宅投資の減少は、駆け込み需要の反動以外に、予想将来所得を含んだ「恒常所得」的要因が大きく影響していることが確認された。こうした分析を基にすれば、98年入り後の住宅着工の著しい落ち込みは、将来に対する家計の不安心理が一層高まる中で、恒常所得がさらに下振れていることを反映したものと考えられる。したがって、今後住宅投資の回復を展望するためには、マクロ経済政策および金融システムの立て直しに向けた諸施策を果断に実行することによって、当面の経済情勢の悪化に歯止めをかけつつ、将来的な所得環境の改善を図っていく必要がある。こうした観点からは、公共部門の効率化を進めることや、社会保障システム改革の方向について、できるだけ早期に国民的合意を形成することなどによって、家計の間で根強い将来負担に対する不安を和らげることも重要であろう。

(補論1)住宅投資における恒常所得的要素の検証(1)
 非耐久財・サービス支出に加えて、住宅ストックから受けるサービス・フローから得られる効用を考慮した家計の異時点間の最適化行動が、過去のデータからみて統計的に支持されるかどうかを検証した。その結果、単に消費支出のみを考慮して家計行動を分析した場合と異なり、住宅のように、長期間に亘りサービス・フローを享受できる一方、その対価として長期間の借り入れを行う財を考慮に入れた場合、家計行動における恒常所得の重要性が増すことが明らかになった。

(補論2)住宅投資における恒常所得的要素の検証(2)
 家計資産をその性質によって3種類(流動的金融資産、非流動的金融資産、実物資産)に分けて説明変数に加えた住宅投資関数を、都道府県別のデータを用いたパネル分析により推計した。この関数について、全ての資産および所得からの弾性値が一定であるという制約を課して仮説検定を行った結果、家計の住宅投資行動においては、足許の可処分所得や流動性の高い資産のみに着目しているのではなく、非流動性資産や実物資産も含めた広い概念で所得が捉えられていることが示唆された。

(補論3)わが国の住宅政策について
 住宅政策として、現在、わが国においてとられている主な施策は、例えば、各々に所得や面積要件が設けられていることに表われているように、基本的には一次取得者層を対象とする住宅ストックの供給に重点があると考えられる。わが国の住宅は、少なくとも世帯数との関係でみた場合、量的にはほぼ充足されてきており、今後は質的向上に対する需要が強まる中で、住宅に関する家計のニーズはますます多様化してくると思われる。こうした中では、住宅政策に関しても、公的部門による直接的な供給や誘導のみを中心に据えて考えるのではなく、できるだけ市場メカニズムを活用して、多様なニーズにより柔軟に応え得るようなシステムの整備・充実を図るべきであろう。

(補論4)住宅ローンの証券化について−米国の例の紹介−
 米国では、住宅ローンの証券化が発達している。証券化とは、住宅ローンの借り手と金融機関との間で個々に金銭貸借契約が結ばれた後、金融機関がその債権をまとめて、証券の形で市場に売却することである。米国の場合、政府機関や準政府機関が、原債権である住宅ローンの金利や元本の支払い保証を行っている。その結果、住宅ローンの証券化によって発行されるモーゲージ証券の信用度は極めて高く、同証券の市場残高は、債券としては財務省証券に次ぐ規模に達している。このような住宅ローンの証券化は、結果として住宅金融の円滑化に資するのみならず、住宅ローン債権のオリジネーターとしての金融機関に新たなビジネスの機会を開くとともに、金融資本市場の発展にも寄与している。

目次

  • 1.はじめに
  • 2.住宅投資と景気の関係
    • (住宅投資のサイクル)
    • (住宅投資の波及効果)
  • 3.住宅投資に影響を及ぼす諸要因
    • (住宅取得能力指数)
    • (所得動向)
    • (金利動向)
    • (住宅資金のアベイラビリティー)
    • (住宅価格)
    • (住宅ストック)
    • (人口構成)
    • (貸家、分譲住宅における供給サイドの要因)
    • (「持家取得能力指数」の問題点)
  • 4.住宅投資関数の推計
    • (住宅投資関数の考え方)
    • (住宅投資関数の構築)
    • (関数の推計およびその評価)
  • 5.おわりに
  • 【補論1】住宅投資における恒常所得的要素の検証(1)−異時点間の最適化問題−
  • 【補論2】住宅投資における恒常所得的要素の検証(2)−パネル分析−
  • 【補論3】わが国の住宅政策について
  • 【補論4】住宅ローンの証券化について−米国の例の紹介−
  • −参考文献−