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日本企業の価格設定行動

「企業の価格設定行動に関するアンケート調査」結果と若干の分析

2000年 8月 8日
日本銀行調査統計局

日本銀行から

 以下には、(要旨)を掲載しています。全文(本文、アンケートの調査票、アンケートの集計結果)はこちらから入手できます(ron0008b.pdf 390KB)。

要旨

  1.  近年、成長期待の低下、グローバル化の進展、さらには情報化(IT化)の動きや規制緩和など、日本企業を取り巻く環境が変化している。こうしたなかで、企業の価格設定行動がどのように変化しているかを調べるため、今回、東証1部上場企業(除く金融・保険、総合商社)を対象に、「企業の価格設定行動に関するアンケート調査」を実施した。
  2.  まず、最近の企業の経営戦略をみると、(1)商品市場の成長期待の低下、(2)株主等からの利益率引き上げ要求の強まり等を理由に、多くの企業(製造業:69%、非製造業:63%)が、利益率重視の経営方針に変わってきている。こうしたなか、利益率確保という目標を達成するために、全体の9割を超える企業が「一段の生産性向上やコスト・ダウンに努める」としている。また、製造業を中心(製造業:54%、非製造業:36%)に、「商品の差別化により従来ほどは価格を引き下げない」といった、非価格競争手段への取り組みを強化しようとする企業も少なくない。
  3.  また同時に、全体の約9割の企業が、(1)商品全体の需要縮小、(2)顧客による取引先の選別強化、(3)国内企業(他店)や輸入品の参入拡大等を背景に、96〜97年頃と比べて、「商品の競争が厳しくなった」と回答している。こうした競争激化への対応策としては、7割以上の企業が「商品の差別化」を挙げている。ただ、「価格の引き下げ」で対応せざるを得ないと答える企業も少なくない。
  4.  次に、価格設定方針を尋ねたところ、従来日本企業の特徴としてしばしば指摘されていた「価格を引き下げてでも市場シェア確保を重視する」というスタンスよりも、製造業を中心に、「商品の需給環境等に十分配慮し、市場で許容される上限の水準に価格を決める」というスタンスを示す企業の方が多く、最近にかけてもそうした傾向が強まっている。非製造業でも、こうしたスタンスを志向する企業は相対的に多いが、最近にかけて、情報化や規制緩和等が進展するなかで、どちらかというと価格競争が強まり、価格設定が「顧客主導で行われる」との意識を強めてきている。競争激化という環境変化が生じているため、「人件費・原材料費等のコストをベースに、利益が確保できるように固定されたマーク・アップ率を乗じる」という価格設定スタンスを重視している企業は、製造業、非製造業とも、それほど多くはなかった。
  5.  この間、価格の硬直化をもたらす要因についてみると、製造業では「競争企業が変更するまで価格を変更しない(=競争企業の動向)」、非製造業では「顧客との関係上、むやみに価格を引き上げることができない(=取引慣行)」といった要因が、それぞれ最も強く意識されている。この点、製造業は、「競争企業の動向」を睨みつつ、可能な範囲で価格の引き下げを行わないで利益率を確保しようというスタンスにある一方、非製造業では、「顧客との関係」から、価格引き上げが困難となる傾向が強まっているように窺われる。
  6.  以上の点を整理すると、多くの企業は利益率重視の経営を「目標」に掲げており、そうした下で、「価格を引き下げてでも市場シェア確保を重視する」といった価格設定スタンスは、最も特徴的なものではなくなっている。ただ同時に、競争激化という環境変化も生じているため、利益確保を前面に打ち出して固定マーク・アップ型の価格設定を行うことは困難となっており、市場全体の需給や競争企業の動向、顧客との取引関係等を十分考慮に入れたうえで、許容される上限に価格を決めようとするスタンスをとる企業が増えてきているように窺われる。