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RTGS——半年間の経験と評価

2001年 8月
日本銀行信用機構室

日本銀行から

以下には、冒頭部分(要旨、目次)を掲載しています。全文は、こちら (ron0108b.pdf 96KB) から入手できます。

要旨

  1. 日本銀行は平成13年初より、当座預金と国債の決済方法を従来の時点ネット決済方式から即時グロス決済(RTGS)方式に変更した。
    RTGSへの移行に当たり日本銀行は、平成8年にパブリック・コメントを募集のうえ具体策を決定し、システム開発をはじめ様々な準備を進めてきた。その際、市場関係者からはシステム面での対応や市場慣行の見直し等の点で多大な協力を得た。
  2. RTGSへの移行後も日銀ネットは円滑に稼働しており、金融機関の間の資金決済や国債決済は日々スムーズに行われている。また、金融機関や民間決済システムにおける新しい決済方式への対応も順調に行われた。
    RTGS方式のもとにおける日々の決済実績をみると、まず当座預金については、時点ネット決済を行っていた頃に比べ、決済金額が大幅に減少した。これは主として、金融機関がRTGS導入を機に決済に伴うリスクやコストに対する意識を強め、コール取引の決済方法などに関わる市場慣行の一部を見直したことによるものである。また、国債決済については、RTGS移行後も決済金額が従来とほぼ同じ水準となっている。そうした中で、国債の決済件数は大きく増加した。これは、決済の円滑化を狙いに1件ごとの決済金額を小口化する市場慣行が導入されたことによる面が大きい。
    一方、日中における当座預金決済や国債決済の進捗状況をみると、円滑な決済を促すための市場慣行の導入や日本銀行による日中流動性の提供(日中当座貸越の供与)等を背景に、朝方から急ピッチで決済が進捗するパターンが定着している。
  3. RTGSは、ある金融機関が何らかの理由で資金や国債の引渡しができなくなった場合に、その影響が直接に及ぶ範囲を当該金融機関の取引相手のみに限定しうる決済方式である。言いかえれば、RTGSへの移行は、時点ネット決済方式が内包していたシステミック・リスク(決済の不履行や遅延が連鎖して多数の金融機関ひいては世の中全体の決済を混乱させるリスク)の削減を狙いとする措置であった。
    これをRTGS移行後の決済実績に照らして整理・評価してみると、RTGS移行に伴い当座預金や、国債の決済が1件ごとに——グロスで——実行されるようになったことにより、従来時点ネット決済方式のもとで「差額計算を通じて、ひとつの決済が他の多数の決済と互いに絡み合うように関係づけられた状態」は、解きほぐされることとなった。この結果、1件の決済不履行が他の多くの決済を巻込んでそれらを一斉に混乱に陥れる可能性——システミック・リスク——は大幅に削減された。また、即時決済への移行に伴って、日本銀行における決済は大部分が日中の早い段階で完了するようになった。こうした決済のタイミングの早期化により、決済日当日の日中における未決済残高は従来に比べかなり小さくなっており、この面からもシステミック・リスクの削減が進んでいる。
  4. 以上のように日本銀行当座預金決済、国債決済のRTGS移行は円滑に実現し、システミック・リスクの削減も期待どおりに進んでいる。このことは日本の金融インフラの安定性が一段と向上したことを意味しており、RTGSへの移行はわが国金融市場を活性化させるための重要な環境整備のひとつであったと考えられる。
    ただ、近年の情報通信技術の発展は目覚しく、決済システムに求められるサービスの中身も変化を続けている。日銀ネットについても、その時々の技術革新の成果をとり入れながら、決済システムの安全性とユーザーにとっての利便性を一層高めていくことが、今後の課題として残されている。
    日本銀行は、引続き市場参加者と密接に協力しながら、日銀ネットを含めた、わが国決済システムの安全性・効率性向上に向けて不断の努力を重ねていく考えである。

目次

  • 1. RTGS移行の経緯と狙い
  • 2. RTGS移行後の決済動向
    • (1)日銀ネットの運行状況
    • (2)当座預金決済
      • イ.決済金額、決済件数の動き
      • ロ.日中の決済進捗状況
    • (3)国債決済
      • イ.決済金額、決済件数の動き
      • ロ.日中の決済進捗状況
      • ハ.国債フェイルの状況
    • (4)日中当座貸越の利用状況
    • (参考)市場取引の動向
  • 3. RTGS移行のリスク削減効果
    • (1)グロス決済化の効果——「多数の決済が相互に絡み合う関係」の解きほぐし
      • イ.当座預金決済
      • ロ.国債決済
    • (2)即時決済化の効果——決済日当日における日中未決済残高の削減
      • イ.当座預金決済
      • ロ.国債決済
  • 4. 今後の課題