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信用格付を活用した信用リスク管理体制の整備

2001年10月3日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、冒頭部分(はじめに)を掲載しています。全文は、こちら (ron0110a.pdf 151KB) から入手できます。

はじめに

 わが国の金融機関では、近年、不良債権問題への反省、リスク・リターン関係を踏まえた業務運営に向けた意識の高まり、リスク計量化技術の急速な進展などを背景に、信用リスク管理体制の整備に取り組んでいる。とくに、内部信用格付に基くローン・ポートフォリオ全体のモニタリングや貸出条件の設定などの体制整備が経営上の重要な課題となっている。

 これまで、わが国の金融機関の信用リスク管理は、個々の融資先の審査管理が中心であり、ともすると、ローン・ポートフォリオ全体を見渡した融資戦略の立案、倒産確率や予想回収率を踏まえたプライシングという視点が疎かにされる傾向が否めなかった。この結果、特定業種への貸出の集中や信用度を反映した適切な金利設定ができないといった、リスク管理の不備が生じ、経営基盤を揺るがすほどの損失に至ってしまった事例もみられている。

 こうした問題を早期・的確に発見するためには、信用リスク管理体制の整備を進める必要があるが、信用格付はそのための基本的なツールである。金融機関は信用格付の整備を進めることで、借手の信用力を統一的な尺度で把握することが可能となり、その結果、信用リスクの計量化やポートフォリオ全体の監視などができる。さらに、信用度に応じた貸出先管理やリスク・リターンを踏まえた合理的な貸出業務の運営・評価などが可能となる。また近年では、統合リスク管理の中で、自己資本充実度の評価の枠組みに活用する動きもみられている。

(図表1)信用リスク管理体制の整備の概念図

  • 図表1

 欧米の金融機関では、内部信用格付が定着しており、リスクの計量化やこれに基づいた収益評価、融資戦略の策定、会計処理等に積極的に活用されている。また、信用格付を軸とした内部管理体制の整備への関心も高いように思われる。

 わが国の金融機関でも、ここへきて、内部信用格付の整備・活用に前向きに取り組んでいる。もとより、日本の金融慣行のもとで、信用格付を経営管理に活用していくためには工夫が必要であるが、リスクの全体像を的確に把握することは、経営を健全に進めていくうえで不可欠なプロセスである。内部信用格付の充実は、わが国金融機関の経営管理体制の整備、競争力の強化にとって、喫緊の課題といえよう。

 以下では、内部信用格付の内容およびその経営管理への活用について検討する。構成は、まず、金融機関が信用格付体系を整備する上での基本的考え方を確認したあと、信用格付の付与に当たっての手法と留意点を整理し、適宜わが国金融機関における信用格付の現状についても触れたい。さらに、格付の客観性を確保するうえでの内部管理体制のあり方について議論する。最後に、金融機関が信用格付をベースに自らのリスク管理手法を整備しつつ、それを業務運営に活用する方法やその際の留意点について検討する。

 本稿の性格は、全金融機関に求められるミニマム・スタンダードといったものではない。以下に述べる点は、あくまで信用格付に関する考え方の一例である。金融機関においては、こうした考え方も参考としつつ、自らの責任でそれぞれのリスク・プロファイルを踏まえたリスク管理体制を構築していくことが重要である。

 日本銀行では、金融機関の与信業務の運営、信用リスクの管理に強い関心を有している。これは、金融機関が的確なリスク認識のもとで、与信ポートフォリオをコントロールすることが、個別金融機関および金融システム全体の健全性の維持にとって重要だからである。こうしたことから、本稿は、考査等の場において金融機関との議論を深めていく際の材料として用いることも想定している。