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わが国の輸出入構造の変化について

2002年 5月28日
神津多可思※1
中山  興※2
峯嶋 愛子※3
才田 友美※4

日本銀行から

 本稿における意見等は、全て筆者の個人的な見解によるものであり、日本銀行および調査統計局の公式見解ではない。第3章第3節の文責は日本銀行調査統計局の増田宗人氏にある。同氏には、第4章および補論の作成も含め、全面的な協力を得た。また本稿作成の過程で、その他の日本銀行のスタッフからも有益な助言等をもらった。とくに愛宕伸康氏、川上圭氏、岸淳一氏、副島豊氏、高橋朗氏の各氏からは多大な助力を得た。これらの方に心からの謝意を記したい。もちろんあり得べき誤りは全て筆者に属するものである。

  • ※1日本銀行調査統計局経済調査課(E-mail: takashi.kouzu@boj.or.jp)
  • ※2日本銀行調査統計局経済調査課(E-mail: kou.nakayama@boj.or.jp)
  • ※3日本銀行調査統計局経済調査課(E-mail: aiko.mineshima@boj.or.jp)
  • ※4日本銀行調査統計局経済調査課(E-mail: yumi.saita@boj.or.jp)

 以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (ron0205b.pdf 514KB) から入手できます。

要旨

  1. 今回のわが国の景気調整局面においては、輸出の動向が重要な要因となったが、その輸出は、輸入とともに、このところ大きく構造を変化させた。90年代における輸出入構造の変化の特徴点は、(1)輸出入両面で情報関連財のウェイトが上昇していること、(2)東アジアからの消費財輸入が増加していること、(3)貿易相手国としては引き続き米国のウェイトが最大であること、の3点に整理できる。
  2. これら特徴点の背後には、(1)世界経済のグローバル化と(2)貿易財の生産過程におけるモジュール化・グローバルな分散化が進んだという、経済のミクロ・マクロ両面の変化がある。
  3. わが国の貿易構造の変化は、情報関連財・消費財・自動車関連財の各産業において典型的に表れている。まず情報関連財産業では、傾向的に輸出特化の度合いが低下しているが、財のグループ毎にみると状況は様々である。完成品では、直接投資等を通じて東アジアなどがわが国とほぼ同じ生産技術を持つに至り、国内生産の優位性は失われ、輸出特化度合いが低下、あるいは輸入特化に変わってきている。部品では、その種類によって内外生産の優位性の違いは区々であり、全体としてみれば輸出特化の度合いが低下している。一方、資本財については、国内生産がなお優位性を保っており、大きく輸出超過になっているとみられる。
  4. 消費財産業では、例えば繊維製品・家電製品などでみられるように、相対的に熟練度の低い労働による生産が可能であり、技術移転も比較的容易である。このため、直接投資、生産委託等を通じて国際的な分業が進められ、主として内外の労働コストの違いを反映して、総じて国内生産の優位性が失われ、輸入特化の状況にある。
  5. 自動車関連財産業では、(1)国内市場での競争が激しい、(2)財に対する嗜好が国によって異なる、(3)80年代に貿易摩擦が国際問題化したといった事情の下で、得意とする中小型車について比較優位を維持してきている。規格化された部品の一部などで内外生産の振り分けが行われつつあるが、グローバルに生産過程が分散化しているということはない。もっとも、現地需要の強い車種については、全生産工程を一式海外に移転するかたちで現地生産化が進められている。
  6. 以上のように、貿易構造の変化のあり様は産業によって様々であるが、全体としてみると、次のような特徴が指摘できる。まず、情報関連財貿易の活発化によって、(1)実質輸出が海外の情報関連財需要に敏感に反応するようになったほか、(2)実質輸出入の同時相関の度合いが高まった。また、(3)情報関連財貿易を介して日本−東アジア−米国の経済の結び付きが一層深まった。
  7. さらに、消費財輸入に関しては、東アジア、とくに中国からの輸入が顕著に増加し、それに伴って国内の消費財供給における輸入ペネトレーションも高まっている。こうした動きを受けて、消費者物価の財の価格が大きく低下している。
  8. こうした中で、今後、わが国の製造業部門がさらに成長していくためには、世界経済の状況に順応し、スムーズに経営資源の再配分を進めていくことが重要である。また、既存の技術は、時間の経過とともに直接投資等を通じて世界的に共有化される傾向にあり、そうした技術を使って生産する財については、労働コストの差が決定的に重要になる。したがって、わが国製造業にとっては、より高い付加価値を生み出す新しい技術やより収益性の高いビジネス・モデルを生み出していくことが不可欠となる。さらに、経済全体の成長という観点からは、生産要素配分のシェアが大きい非製造業部門の生産性をどこまで上げることができるかということも重要である。