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雇用・所得情勢にみる日本経済の現状

2004年12月 7日
日本銀行調査統計局

日本銀行から

 以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら(ron0412a.pdf 372KB)から入手できます。

要旨

 景気の回復を背景に、最近は雇用面でも改善傾向が続いているが、名目GDPや企業収益に比べて雇用者所得の動きは弱く、労働分配率は大幅に低下している。こうした企業の根強い人件費抑制姿勢には、いくつかの背景がある。具体的には、(1)グローバル化や公共事業の削減などに伴う産業構造の調整圧力、(2)企業の収益力強化の動き、(3)非正規雇用の拡大などにみられる労働市場の構造変化、といった点である。

 こうした背景のもとでみられる企業の人件費抑制姿勢は、基本的には、設備投資や新たな財・サービスの創出といった前向きの経営戦略と軌を一にする、資源配分の効率化へ向けた企業行動の一側面と捉えることができる。ただし、上記(1)〜(3)のような構造的な変化に加えて、(4)長きにわたる低成長の後で企業の中期的な期待成長率がなお十分には高まっていないことも、企業から家計への所得の波及を限定的なものにとどめている一因と考えられる。

 この間、景気回復が続いているにもかかわらず消費者物価がなかなか上昇に転じないのも、生産性の上昇に比べて賃金が抑制されていること——すなわちユニットレーバーコストの低下——に一つの原因があると考えられる。

 企業の人件費抑制姿勢は当面根強く残ると考えられるが、今後も景気の回復が続いていけば、雇用過剰感のさらなる後退や、企業の期待成長率の上昇などを通じて、雇用者所得は緩やかに増加していくと考えられる。もっとも、そのテンポや、消費者物価にどの程度上昇圧力をもたらすかについては、不確実性が大きい。

 日本経済にとって重要なことは、急速な少子高齢化の進行が避けられない中で、中長期的な活力を維持、向上させていくことである。その点で、若年層の技能形成など、広い意味での労働市場に求められる役割は、さらに大きくなっていくと考えられる。