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アジアにおける日系企業の財務活動を巡る諸論点

「アジアにおける日系企業の財務活動に関する研究会」における議論のとりまとめ

2006年10月
日本銀行国際局アジア金融協力センター
児玉朗※1

要旨

  1. 日本銀行国際局アジア金融協力センターでは、アジアで活動する日系企業が企業財務面で直面する課題等を抽出し、今後の解決の方向性を探るため、本年4月に「アジアにおける日系企業の財務活動に関する研究会」を組成し、議論を行ってきた。
  2. 今回の研究会での議論は多岐にわたったが、まずアジアにおける資金調達面では、主たる資金調達源となっている銀行借入について、現地での資材調達や国内市場向け製品販売の拡大等を背景に運転資金として人民元、タイ・バーツを中心とする地場通貨の調達ニーズが増大している点などが指摘された。また、これに関連して今回の研究会では、中国における貸出金利規制や「外貨担保付借入」等が議論に上った。
  3. 資金管理面では、アジアに所在するグループ企業全体を対象とするCMSの構築は現段階では制約が大きく、現実的ではないとの見方がコンセンサスとなった。こうした中で、幾つかの企業では、多数の現地法人を抱える中国、タイを対象に、当該国内での人民元、タイ・バーツにかかるCMSを構築する試みがなされており、一定の成果が上がっている旨報告された。また、アジアにおける金融統括拠点として税制面でのメリットに着目してシンガポールを活用する動きが見られるほか、中国での財務公司やタイでのトレジャリー・センターの設立を巡っても議論が行われた。
  4. 97〜98年の通貨金融危機以降、アジア通貨がそれまでの事実上の対ドル固定相場制から管理変動相場制へ移行していることや、日系企業から見ても内販ビジネスの拡大等を背景にアジア通貨にかかる為替ポジションを抱える傾向が高まっていることなどから、アジア通貨に絡んだ為替リスクをどのように管理するかが重要な課題になってきている。今回の研究会では、特に昨年7月に変動相場制に移行した人民元にかかる為替リスク管理について議論された。
  5. 多くの日系企業では、内販ビジネスの拡大に伴い、売掛債権が発生する場合等を想定して、取引先地場企業の信用力を把握する必要性が高まっている。現状では、各社とも域内での信用情報の未整備等に鑑み、地場企業との取引には総じて慎重な姿勢で臨んでおり、企業会計や債権保全に関する法制の整備など、各種社会インフラの改善が必要との指摘が聞かれた。
  6. この他、今回の研究会では、アジアでの事業における円資金の活用状況や最近アジアでのビジネスに積極的な姿勢を強めている邦銀の活動についても議論が行われた。日本銀行国際局アジア金融協力センターでは以上のような形で議論してきた事項については今後とも状況の的確な把握に努め、アジアの中央銀行間のネットワーク等を通じて改善の方向を探っていきたいと考えている。

本稿で示された意見等は、日本銀行および国際局の公式見解を示すものではありません。

  • ※1アジア金融協力センターリサーチフェロー (akira.kodama@boj.or.jp)