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対外面からみた東アジア経済および金融の特色

域内経済・金融の統合論議を念頭に

2006年12月
日本銀行国際局
アジア金融協力センター
中村毅夫※1
篠原壽成※2

要旨

 本稿は、アジア金融協力センターの調査活動の過程で企業や金融機関などから寄せられた照会や要請に基づいて、対外面からみた東アジア地域の経済および金融についていわば実務家向けの鳥瞰図を提供し、当地域の金融市場が当面有する課題を整理する一助とするべく取りまとめたものである。

 高成長を続ける東アジア地域の経済発展過程を対外面から特徴付けているのは、海外からの持続的で潤沢な公的及び民間資金の流入である。とりわけ外国直接投資の継続的な流入は、GATT/WTO体制とそれを補完する地域貿易協定網の充実と相俟って、貿易部門を中心に産業の発展を促してきた。こうした外国直接投資と貿易の好循環は、同時に域内の相互依存度の高まりをもたらしている。すなわち、東アジア全体が「世界の工場」と呼ばれ、原材料、部品・半製品、製品が域内各国間で国境を越えて複雑にやりとりされる様になっている。このことは外需主導の産業高度化要請が域内の実体経済を統合の方向に向かわせる原動力となりつつあると言っても良いかもしれない。

 一方、金融面では、かつて機能していた事実上のドルペッグ制と安定的資本流入と金融政策の独立性の鼎立という構図が、金融資本市場のグローバル化の流れの中で保ち得なくなり、97〜8年のアジア通貨危機を契機に多くの国がフロート制へ移行した。その後、危機対応能力の強化や資金仲介機能の多様化といった政策対応も進展している。今後とも海外からの資本流入が域内の経済発展を支える重要な原動力であるとすれば、各国の経済規模に比べて大規模な資本流出入が生じた時のショックを十分吸収出来る深みと柔軟性のある金融・為替市場の存在が重要となる。

 こうした観点に立って、東アジア域内全体として市場機能を高めて行くには、内外市場間の金利裁定が働く仕組みを確保することが望まれる。域外は勿論、域内の各国間取引においても米ドルが共通決済通貨として機能している状況下、国内の金融市場において様々な期間の取引が活発に行われ、外国為替取引において自由な直先相場形成がなされることや、各通貨間の決済の安定性が向上していくことが期待される。特に短期金融市場については、そうした内外金利裁定取引の中核となる市場金利が形成される場であり、中央銀行の金融調節の場でもあるので、その市場整備は今後とも取組むべき重要な課題であろう。

本稿の論点解釈は、執筆者の見解であり、日本銀行および国際局の公式見解を示すものではない。有り得べき誤りは全て執筆者に属する。

  • ※1アジア金融協力センター長(takeo.nakamura@boj.or.jp)
  • ※2アジア金融協力センターリサーチフェロー(toshiaki.shinohara@boj.or.jp)