国際金融危機の教訓を踏まえたリスク把握のあり方
2011年3月31日
日本銀行金融機構局
要旨
2007年以降に生じた国際金融危機は、金融機関の経営・リスク管理や金融規制・監督体制など、広範囲にわたって様々な教訓を残した。わが国金融機関への国際金融危機の直接的な影響は米欧金融機関に比べて相対的に軽微であった。しかし、間接的な影響まで含めると、大きな影響を受けた事実は否めない。また、将来、異なる波及経路やパターンで大きなショックが加わる可能性もある。わが国金融機関には、国際金融危機を「対岸の火事」とせず、その教訓をリスク管理に活かすことが期待される。
本稿では、国際金融危機の様々な教訓のうち、わが国金融機関におけるリスク把握のあり方について、2つの課題を整理した。第1は、リスク計量化手法に過度に依存せず、様々な定量的・定性的情報を活用した判断を重視することである。従来、リスクの把握は、VaR等のリスク計量化手法を軸とすることがより先進的と考えられる傾向があった。しかし、過去データに大きく依存したリスク計量化手法だけでは、市場環境の大きな変化を的確に捉えることができない。こうしたリスク計測の限界を十分に理解し、リスク計量化手法、ストレステスト、その他の定量的・定性的情報を駆使して、リスクを多面的に評価・把握することが求められる。
第2は、全社的な視点に立ったリスク把握を強化し、異なるリスクカテゴリーや部門に跨るリスクの波及を勘案できるようにすることである。国際金融危機では、サブプライムローンの証券化商品価格の大幅な下落という特定の事象が、様々なリスクカテゴリーや部門に重大な影響を及ぼした。市場環境が大きく変化するときに、平時に観察されたリスクカテゴリー間の相関構造が変化する事態も発生した。米欧金融機関の多くが導入していた統合リスク管理は、全社的な視点でのリスク管理を目指すものであったが、ストレス時におけるリスクの相関構造の変化や波及効果を十分に捉えることはできなかった。また、リスク管理が各部門で完結し、分断された構造(サイロ化)となる傾向がみられた。こうした課題を克服するためには、リスクの波及による全社的な影響度を評価するストレステストや、組織内の様々なリスク情報を共有するリスク・コミュニケーションを強化することが求められる。
日本銀行から
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