このページの本文へ移動

東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局第6回共催コンファレンス

:「物価変動とその中での経済主体の行動変化」の模様※1

2016年1月21日
日本銀行調査統計局

要旨

東京大学金融教育研究センターと日本銀行調査統計局は、2015年11月26日、日本銀行本店にて、「物価変動とその中での経済主体の行動変化」と題するコンファレンスを共同開催した。そこでは計5本の論文が報告されたほか、全体の総括討議も行われた。議論の内容を要約すると以下のとおりである。

物価変動の背景

近年、物価は、基調としては緩やかに上昇してきており、日本経済はデフレから脱しつつあるとの認識が共有された。この背景のひとつとして、量的・質的金融緩和政策を起点としたインフレ期待の変化があるとの見方も共有された。ただし、その変化は緩やかであるほか、経済主体間でのばらつきもなお大きいとの指摘が聞かれた。この点、経済主体の期待形成は、ある程度合理的であるが、経済の変化に対する認識の浸透に時間を要するなどの指摘がみられた。

また、企業の価格設定行動について、デフレ期には、価格を据え置くことが「ノルム(規範)」となっていたが、最近では価格が据え置かれる品目が減少する一方、値上げ品目が増加しており、少しずつではあるが「ノルム」に変化の兆しがみられるとの指摘があった。先行きについては、成長期待や交易条件など、価格設定行動の背後にある様々な要因をどのように捉えるかによって評価が分かれた。

経済主体の行動変化

企業収益が増加しているわりには、賃金の上昇や国内設備投資の増加は緩やかであり、企業行動はなお慎重との見方が共有された。この背景には、企業がグローバルな競争力やわが国の経済成長の先行きに確信を持てないことに加えて、終身雇用にみられるような日本的雇用慣行が前向きな企業行動を抑制している可能性も指摘された。そのうえで、成長期待の引き上げに向けて、政府の成長戦略で提示されたような取り組みを地道に続けていく重要性が共有された。こうしたなか、量的・質的金融緩和政策は、今次の景気回復局面において経済・金融にプラスの影響を及ぼしたとの見方が多かった。また、現在の金融政策は、労働市場のタイト化を通じて、省人化投資や人的資本への投資を促すなど、持続的な経済成長に資する面もあるとの指摘もみられた。
上記に関連して、賃金の伸びが緩慢な背景として、趨勢的な労働生産性の伸び悩み、交易条件の悪化、労働者の交渉力の弱さなどが挙げられたほか、正規雇用と非正規雇用の関係も重要な論点として提示され、このメカニズムの詳細を検討する必要があるとされた。また、家計においても、一部にリスクテイクの積極化がみられるが、この動きをさらに後押しするためには、マイルドなインフレ率の上昇に加えて、金融リテラシーや株式投資に対する信頼性の向上なども重要との指摘がみられた。

  • ※1本稿で示されたコンファレンス内での報告・発言内容は発言者個人に属しており、必ずしも日本銀行、あるいは調査統計局の見解を示すものではない。

日本銀行から

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行調査統計局までご相談ください。
転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

調査統計局経済調査課経済分析グループ

E-mail : post.rsd18@boj.or.jp