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中央銀行の財務と金融政策運営

2023年12月12日
日本銀行企画局

要旨

  1. 日本銀行は、1990年代後半以降、ゼロ金利制約に直面するもとで、様々な非伝統的な金融政策を実施してきた。主要な海外中央銀行においても、グローバル金融危機の発生以降、大規模な資産買入れなどを実施してきた。こうした大規模なバランスシートの拡大を伴う非伝統的な金融政策は、その引き締め局面で、中央銀行の財務に影響をもたらし得るとして、そのことと金融政策運営能力、ひいては通貨の信認を関連付けた議論がみられている。

  2. 中央銀行は、買い入れた国債等から利息収入を得る一方、負債である当座預金(所要準備)と銀行券については金利が付されない収益構造となっている。このため、通常、安定的に収益(通貨発行益)をあげることができる。

  3. 中央銀行が非伝統的な金融政策を実施するもとで国債の買入れ等によってバランスシートを拡大すると、資産側では国債等が、負債側では当座預金(超過準備)が増加する。超過準備に対する利息の支払いが生じるが、買い入れる国債の利回りは、通常、超過準備への付利金利を上回るため、保有国債等の増加に応じて、利息収入等も増え、全体の収益が増加する。

    他方、金融政策が引き締め方向に向かい、バランスシートが縮小していく局面では、資産側では国債が、負債側では超過準備が減少していくことが想定される。その際、中央銀行が付利金利を引き上げると、支払利息が増加し、収益を下押しする。もっとも、その後は、超過準備が減少するにつれて支払利息は減少する。さらに、保有国債が利回りの高い国債に順次入れ替わっていくため、受取利息が増加することが見込まれる。こうした過程で、一時的に赤字が発生する可能性はあるが、その場合でも、通常、いずれは収益が回復していく。

    バランスシートの縮小局面において、収益が変動する程度は、(1)バランスシートの規模、(2)保有国債の満期償還時に再投資する規模、(3)短期金利・長期金利の推移、(4)銀行券発行残高の動向などによって大きく異なってくる。

  4. 中央銀行の収益や資本の減少については、管理通貨制度のもとでは、「金融政策運営にどのような影響を与えるのか、与えないのか」という視点から検討することが重要である。この点、金融政策運営に「悪影響を及ぼす」という見方と、「悪影響を及ぼさない」という見方があり、その理論的背景についても、様々な立場が存在する。

  5. この間、主要な海外中央銀行では、最近のインフレ対応から、急速かつ大幅な金融引き締めを進めており、収益や資本が減少している。こうした中、対外的な説明において、一時的に赤字や債務超過となっても政策運営能力に支障は生じない点を強調している。また、現在は収益が減少しているが、これまでのバランスシート拡大局面では収益は増加していたという事実にも言及しつつ、大規模緩和の政策評価にあたっては、経済全体へのプラス効果に焦点を当ててなされるべきであるといった考え方を示している。そのうえで、これらの中央銀行では、政策運営能力への疑念や中央銀行の信認低下などの悪影響を回避する観点から、引き続き、資本の重要性を踏まえ、時間をかけて自己資本の回復を図っていく方針にある。こうしたもとで、各国・地域ともに、適切な金融政策運営を通じて通貨の信認を確保するという点で、特段の支障は生じていない。

  6. 以上を踏まえると、中央銀行の財務と金融政策運営との関係については、次のように整理できる。

    管理通貨制度のもとで、通貨の信認は、中央銀行の保有資産や財務の健全性によって直接的に担保されるものではなく、適切な金融政策運営により「物価の安定」を図ることを通じて確保される。そうした前提のもとで、中央銀行は、やや長い目でみれば、通常、収益が確保できる仕組みとなっているほか、自身で支払決済手段を提供することができる。したがって、一時的に赤字または債務超過となっても、政策運営能力に支障を生じない。ただし、いくら赤字や債務超過になっても問題ないということではない。中央銀行の財務リスクが着目されて金融政策を巡る無用の混乱が生じる場合、そのことが信認の低下につながるリスクがある。このため、財務の健全性を確保することは重要である。

    日本銀行としては、引き続き、財務の健全性にも留意しつつ、適切な政策運営に努めていくことが適当であると考えている。

日本銀行から

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