金融緩和が金融システムに及ぼした影響
2024年6月20日
日本銀行金融機構局
要旨
本稿では、過去25年の金融緩和策が金融システムに及ぼした影響について、(1)金融循環の動向、(2)低金利下の金融機関貸出、(3)今後のリスク要因、という3つの観点から分析を行った。
金融循環の動向
金融機関の貸出態度は、2000年前後や2000年代後半の金融危機直後の一時期を除き、積極的となっていた。
金融循環を表す金融ギャップからは、低金利下で、バブル期前後にみられたような大きな金融不均衡が蓄積した様子は観察されない。バブル崩壊後の金融循環の停滞局面は、2000年代半ばにかけて解消した。2010年代以降は、民間債務の増加を背景に、金融循環の拡張局面が続いている。もっとも、実物投資の増加や資産価格の上昇による影響は、これまでのところ限定的である。
低金利下の金融機関貸出
金融仲介活動をみると、2000年代前半にかけて、バランスシート調整と不良債権処理を主因に企業向け貸出が減少したが、その後の企業向け与信と経済活動水準とのバランスは、概ね安定している。ただし、金利感応度の高い不動産関連の分野では、貸出残高が既往ピーク圏にある。増加した貸出の中には、債務者の収入減少や貸出金利の上昇に対する耐性が相対的に低い案件もみられる。
金融システムに関する反実仮想分析からは、最近10年の貸出増加には、低金利や景気改善の効果に加え、地価の安定を背景とした担保価値の改善効果も寄与していたことが示唆される。
また、借入需要が構造的に減少したこと、金利低下による収益減をカバーするために金融機関が貸出量の拡大に努めたことから、貸出市場において、金融機関の貸出競争が強まった。こうした一連の変化も、利鞘縮小や貸出増加につながったと考えられる。
今後のリスク要因
円滑な金融仲介活動のもと、企業の借入期間が長期化し、金利リスクの増加要因となっている。企業は、長期・固定金利の安定資金を確保し、借換リスクを抑制してきた。こうした企業の借入行動は、貸し手である金融機関にとって、低金利下において利鞘の確保につながった面がある一方、デュレーション・リスクを高める一因にもなっている。
この間に借入を増やした企業の中には、収益力が改善し、財務の健全性が増した先があった一方、収益力の低迷が続く先もあった。前者の企業は、投資に積極的であり、景気改善に寄与してきたと考えられる。後者の企業は、低金利や景気改善のもとでも常に一定の割合を占めていた。同企業は、それ以外の企業に比べ、ストレス耐性が低い。今後、金利が上昇する過程で、同企業向けの貸出案件がランクダウンの対象となることが考えられる。
金融機関の収益力は、過去25年で大きく低下した。コア業務純益ROEは、最近では反転上昇しているものの、地域金融機関においては歴史的な低水準にとどまっている。その結果、ストレス耐性が低下している先もある。金利が短期間のうちに大きく上昇した際には、保有有価証券の評価損が金融機関の金融仲介活動の制約になることが考えられる。また、外部環境が変化した際、信用コストが増加することも考えられる。
日本銀行から
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