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1997年 7月
植村修一
鈴木亘
近田健
日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。
以下には、(はじめに)を掲載しています。全文は、こちら (cwp97j03.lzh 349KB[MS-Word, MS-Excel]) から入手できます。
資産価格の金融政策運営上の位置付けを考えた場合、資産価格の安定そのものは金融政策の最終目標とはなり得ないというのが、各国当局、学界のほぼ一致した見方である 1。資産価格は将来にわたる様々な期待を反映して変動し、その結果、一般物価や景気の変動に対して振幅が大きく、資産価格の安定を完全に求めると他の政策目標を犠牲にする可能性が高いことがその主な理由である。他方、80年代後半以降の資産価格の大幅上昇・下落の経験、すなわち、資産価格の大幅変動が景気の振幅を拡大し、加えて金融システムの安定性をも損ないかねないという事態を踏まえると、金融政策運営上、資産価格の動きを軽視することはできないという認識でも、今やほぼコンセンサスがあると言えよう。
そうした中で、日本銀行としても金融政策運営上「資産価格の動きを視野に収める」必要があると述べてきているが、資産価格を政策目標自体としては位置付けていない 2。こうしたアプローチは、資産価格変動について、その要因や影響度に対する一定の評価を行い、金融政策の最終目標である「一般物価の安定」や「持続的経済成長の達成」を図る上で必要があれば、政策判断の1つの要素として考慮に入れる、というものであると考えられる。ただ、これまでのところ資産価格の動向を具体的にどのように評価し、位置付けていくのかについて、必ずしもはっきりしていない。本稿では、上記の問題に対し明確な解答を与えることにはならないが、少なくともこうした判断をするための前提条件となる、
といった問題を採り上げて分析し、若干のインプリケーションを指摘するとともに、当面の政策運営上の留意点についても、見解を述べることとしたい。
なお、資産価格としては、ゴルフ会員権や美術品相場を含め多種多様なものが考えられるが(広義の資産価格には外国為替相場や債券相場も入る)、本稿では、株価と地価に分析対象を絞った。
本稿の内容を予め要約すると次の通り。
なお、ここで、資産価格におけるいわゆるバブルの問題について、あらかじめ触れておきたい。バブルとは、一般に、現実の資産価格のうちファンダメンタルズでは説明できない部分、あるいは資産価格がファンダメンタルズから乖離する状況を指す。バブルが大きければ、今回のようにそれがクラッシュするリスクをより多く内包している。逆に、資産価格が大幅に上昇しても、それがファンダメンタルズに基づくものであれば、経済への影響は比較的少ないと考えられる。例えば、戦後3回の地価高騰のうち、岩戸景気の時期は、設備投資の急拡大を背景とした工業地主導の地価上昇というファンダメンタルズの変化を反映したものであったため、その前後の金融経済に大きな悪影響を及ぼすことはなかった。しかし、資産価格変動のうちファンダメンタルズ部分とバブル部分を少なくともその時点で識別することは困難な課題である。そもそも、資産価格を形成するファンダメンタルズは予想ないし期待の部分を含み、こうした予想自体、結果的に行き過ぎることもあるからである(ファンダメンタルズに関するユーフォリアの発生)。実際、80年代後半において当時の地価上昇は「東京国際金融市場の発達などを背景にした土地の生産性上昇を反映したもの」、つまりファンダメンタルズに基づくものとの見方が広範に支持されていた。こうした点を踏まえ、本稿では、バブル部分の可能性を含めた現実の資産価格が有する情報性等を検証するものである 3。
なお、80年代後半の資産価格上昇がバブルであったか否かについての分析は、地価、株価ともに、既に多数の研究が行われている。こうした研究に於けるバブルの識別方法は、大きく二つに分かれる。1つは、ファンダメンタルズ価格と実際の価格を比較して、その乖離幅の妥当性を議論するタイプの分析である。例えば地価については、経済企画庁(1991)が、東京、名古屋、大阪の商業地に於ける収益還元地価(指数)を試算し、現実の地価(指数)との乖離が80年代後半に発生したことを指摘している(しかし、こうした方法では基準時点の取り方によって乖離発生の時期が異なり得る)。また株価については、植田(1989)が、ファンダメンタルズ要因である利子率と収益成長率を用いて、83年以降のPERの動きが説明できないところから、バブルないしリスクプレミアム低下のどちらかが発生したと考えざるを得ず、前者の可能性が高いと述べている。
もう1つのタイプは、発散的なバブルが存在する場合、データが定常性を満たさなくなるという視点から、効率市場仮説を前提に資産価格の変化率の妥当性を検定する方法である。株価については、浅子・加納・佐野(1990)が、指数トレンドを株価から除去した残差を用いて、バブル検出を試みており、80年代後半に合理的バブルおよび非合理的バブルが存在していたことを確認している(もっとも、ほぼ同様の分析をした米沢・石川・原(1992)では、合理的バブルの存在が確認されていない)。また、地価については、井出(1992)が、ファンダメンタルズ要因で説明した回帰残差を用いて、単位根検定を試みているが、バブルを確認するまでには至っていない。いずれにしてもこうした手法の問題は、資産価格高騰がある程度終わった時点でなければ、サンプル数の関係からバブルを検出できないこと、さらに地価は半期データであるため、サンプル数が少なすぎて統計テストの使用が難しい、という点にある。