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インフレ率水準と相対価格変動の関係について

2000年 7月
上田晃三
大沢直人

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(要旨)を掲載しています。

要旨

 インフレのコストの一つとして指摘されるのは、インフレの高まりが相対価格変動(relative price variability)を増大させ、資源配分を非効率にするというものである。相対価格変動がインフレ率水準と関連があることについては、米国など海外においては多くの研究がなされてきているが、わが国のデータを用いた分析は僅かなものに止まっている。本稿の目的は、物価安定期を含む直近までの日本のデータを用いて、相対価格変動の増大を通じたインフレのコストに関し、実証分析することにある。

 本稿における実証結果の要点は、以下のとおりである。

  1. (1)インフレ(および物価下落)の高まりは、相対価格変動の増大(過剰な相対価格変動)をもたらす。相対価格変動を最小にするという意味で望ましいインフレ率は、ゼロ近傍にあると考えられる。この点は、オイルショックを含む期間(70年以降)のみならず、オイルショックを除いた比較的インフレ率が低い期間(81年以降)においても、同様である。
  2. (2)インフレ水準自体もインフレの不確実性も、ともに相対価格変動に影響を与える。これは、「安定的であれば、高めのインフレ率であってもよい」、あるいは「低めのインフレ率であれば、不安定であってもよい」という考え方を支持しないものであり、相対価格変動の観点からは、「インフレ率は低水準で、かつ安定的に推移することが望ましい」点を示すものである。
  3. (3)相対価格変動の増大は、実体経済のボラティリティを高めるという点で、実体経済にマイナスの影響を及ぼしているようである。