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介護保険制度と介護市場の分析 1

2000年12月
永田俊一
佐竹秀典
鈴木 亘

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(はじめに)を掲載しています。全文は、こちら (cwp00j17.pdf 113KB) から入手できます。

はじめに

 公的介護保険制度が施行されて半年余り、2000年10月からは保険料の徴収2が始まり、制度の存在が少しずつ身近なものとなりつつあります3。この制度の導入により、日本の高齢者福祉や介護をめぐる状況は大きく変化しました。それは主に次の三点に要約できるでしょう。

 第一に、要介護リスクへの対応が、措置から契約に切り替わりました。従来の、行政措置によって「与えられる福祉」から、保険料を支払って得た「契約としての福祉」へと変わります。第二に、理念として介護の社会化が目指されています。従来の高齢者福祉は、家族介護を中心に設計されており、行政措置による介護はいわば副次的なものでした。しかし、少子高齢化の進展や医療の高度化などで、家族だけでは介護を支えきれなくなっており、今回の制度において、社会全体で支えていく仕組みが整えられることになりました。第三に、福祉の分野に市場原理を導入したことが挙げられます。営利企業の活力でサービス量の拡大を促すほか、多様なサービス形態が生み出されることや、将来的に介護が新しいビジネス・産業として発展していくことが期待されています。

 このように画期的な内容となっている公的介護保険制度が、既に一定の実績を挙げていることは確かです。厚生省の調査(96市町村、2000年4月時点)では、導入前と比べて介護サービスの利用者が23%増加し、従来のサービス利用者の63%がサービス量を増やした、と報告されています。また、全国老人クラブ連合会の調査(2000年7月時点)でも、サービス利用者が29%増加し、また、従来からのサービス利用者の29%がサービス量を増加させました。したがって、導入前に比べ利用そのものが拡大していることは、ほぼ間違いありません。

 しかし、実際の現場では、幾つか問題が発生しているようです。中でも、制度の中核として期待されている訪問介護事業で、少なからぬ数の事業所が経営不振を表明し、リストラを計画している先もあるということが、マスコミ等で取り上げられています。ビジネスとしての介護が成立するかどうかは、制度の存続可能性の観点から見て大変重要です。もちろん制度が始まったばかりで様々な混乱もあるでしょうが、中には制度の不備から発生している問題もあるようです。そこで、我々は、訪問介護事業者へのアンケート調査を実施し、どの程度事業所が苦戦しているのか、また、なぜそうなったのかなどを探ることにしました。

 結論から言えば、大半の事業所が収益的に赤字を余儀なくされており、その原因の一つとして、事前の予想に比べサービスに対する需要が伸び悩み、とくに、制度の眼目とも言うべき身体介護ではなく、家事援助に需要が片寄っていることが挙げられます。これは、各々のサービスの価格設定に問題があることによって生じており、できるだけ早く改善すべきだと思います。

 なお、このアンケートは、東京を中心とした関東1都6県を対象に行いました。地域や地方によって事業所の特性や事業所を取り巻く環境が大きく異なることには十分留意する必要があります。

  1.  本稿は、永田俊一(日本銀行理事)、佐竹秀典(調査統計局経済調査課、現大阪支店)、鈴木亘(大阪大学社会経済研究所助手)の3名で取りまとめました。なお、本稿の作成にあたっては、有永恵美(調査統計局経済調査課)、中川裕希子(同)、才田友美(同)ほか、調査統計局の同僚諸氏から多大な協力を頂きました。
  2.  2000年4月から9月までの半年間、保険料徴収が免除され、2000年10月から1年間は、半額徴収となっています。
  3.  日本銀行による「生活意識に関するアンケート調査(第11回、平成12年12月公表)」によると、公的介護保険制度の認知度について、少なくともどういうものか知っている人(「詳しく知っている」と「詳しくはないがどういったものかは知っている」の合計)が全体の63.7%に達し、「まったく知らない」人はわずか5.8%にとどまっています。