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米国の長短金利差からの期待抽出

景気先行指標としての社債金利の有用性について

2000年 6月20日
齋藤克仁
武田洋子

日本銀行から

日本銀行国際局ワーキングペーパーシリーズは、国際局スタッフによる調査・研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは国際局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに対するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せください。

以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (iwp00j02.pdf 154KB) から入手できます。

(要旨)

  1. 一般に、長短金利差は、金融政策スタンスに対する金融市場関係者の見方や当面の資金需要の強弱などを反映することから、先行きの景気やインフレ動向に関連する有用な情報を内包している。しかし、最近の米国をみると、金融危機時における“flight to quality”(安全資産の代表である米国債への逃避)の動きや国債需給の歪みなどが、国債(財務省証券)の利回りに強く影響し、国債の長短金利差からこうした情報を取り出すことが困難化しているという問題がある。
  2. そこで、国債の長短金利差に代わる指標として、社債の長短金利差を取り上げ、その景気先行指標としての有用性を検証した。その結果、社債の長短金利差にも、先行きの景気動向に関連する情報量が十分内包されていることがわかった。
  3. また、90年代央以降は、米国における財政バランスが急激に改善しているため、財政プレミアム(公的債務が累増しているケースで、債務履行に不確実性を伴うことに対して投資家が要求するリスク・プレミアム)が低下し、構造的に長短金利差が縮小している可能性が大きい。実際に、財政バランスの改善効果を予め除去して、長短金利差を推計すると、社債および国債のいずれの長短金利差とも、景気先行指標としての有用性が大きく改善する。
  4. 米国においては、社債金利に含まれる信用リスク・プレミアムが比較的安定的に推移しているとみられることも考慮に入れると、国債の発行残高が減少傾向を辿ると見通される下では、社債の長短金利差の情報量に今後注目すべきである。ここでの分析に従って、現在の社債長短金利差を基に先行きの実質GDP成長率を推計してみると、米国はなお高成長を続けるという予測結果が得られた。

以上