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ITの生産性上昇効果についての国際比較

2000年10月11日
齋藤克仁

日本銀行から

日本銀行国際局ワーキングペーパーシリーズは、国際局スタッフによる調査・研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは国際局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに対するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せください。

以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (iwp00j03.pdf 282KB) から入手できます。

(要旨)

  1. 米国では、96年頃から始まった労働生産性の加速的上昇が2000年央まで続き、IT化の進展が労働生産性を構造的に上昇させているとの議論が優勢になっている。こうした中、90年代後半における生産性上昇率の高まりのうち、IT関連の寄与が過半に達するとの実証分析もみられる。一方、米国以外の国々をみても、オーストラリアやカナダ、ノルウェーなど、IT化の進展が生産性上昇に繋がり、90年代後半に高成長を達成しているとみられる国もいくつか存在する。本稿では、既往リサーチ等をベースに、米国におけるITの生産性上昇効果について検証すると同時に、先進国を対象としてIT化の進展度合いや、その生産性押し上げ度合いなどについて国際比較を行い、90年代において成長率ないし労働生産性上昇率に関する格差が生じる背景として、IT化の違いが大きく影響を及ぼしているかどうかについて考察する。
  2. IT化の進展が労働生産性を押し上げるルートとしては、(イ)IT産業自体の効率性(全要素生産性<TFP>)上昇、(ロ)ITストックの蓄積(Capital Deepening)、(ハ)ITストックとその他資本ストックや労働力との間におけるプラスのシナジー効果(ITユーザーのTFP上昇)が考えられる。米国においては、90年代後半に90年代前半ないしそれ以前の長期トレンドと比較して労働生産性上昇率が1%ポイント程度高まっているが、これまでの研究成果では、この高まりのうち上記(イ)IT産業の効率性向上、(ロ)ITストックの蓄積だけでその5〜7割程度が説明されるとの結果が得られている。実際には、業種別のTFPとITストック比率(ITストック/全資本ストック)との間の相関関係は高いことから、(ハ)ITストックのシナジー効果の寄与も小さくないとみられ、これも合わせたIT全体の生産性上昇への寄与はかなり大きなものと推察される。
  3. 次に、米国以外の国々でのITの生産性上昇効果をみるために、まず先進国における90年代の経済パフォーマンスを比較すると、OECD諸国の平均では、80年代と比較してGDP成長率が鈍化しているほか、労働生産性上昇率もほとんど変化していない。しかし、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドなど北欧諸国や、米国、カナダ、オーストラリアなどの英語圏諸国では、成長率ないし労働生産性上昇率が高まっている国もみられる。
  4. 米国を対象とした研究事例にならって、ITの生産性押し上げ効果を上記(イ)、(ロ)、(ハ)に分解してみると、(イ)IT産業の効率性については、スウェーデン、フィンランドなどIT産業が急速に成長している北欧諸国において寄与度が高く、これらの国々では、IT産業の拡大が米国以上に生産性を押し上げている可能性がある。また、(ロ)ITストックの蓄積については、英国、オーストラリアなどの英語圏諸国で、IT投資が積極的に行われている結果、労働生産性に対しても高い寄与を示している。また、(ハ)シナジー効果については、ITストックの蓄積が進み、財・労働市場の規制が弱い英語圏諸国で大きい(経済全体のTFP上昇率が高まっている)という結果が得られ、これらの国々ではITストックの蓄積が同時にシナジー効果を発揮している可能性がある。
  5. IT化についてのデータは蓄積が少なく、こうした国際比較については、かなりの幅を持ってみる必要はある。しかし、90年代に高成長を達成した多くの国では、IT産業の成長やITストックの蓄積など、何らかの形でIT化の進展が急速に進んでいる(逆に経済のパフォーマンスの悪い国ではIT化の進展も遅れている)という結果は、ITが供給サイドの強化を通じて経済に与える影響は無視し得ない程大きいことを示している。しかも、実際にIT化の進展の違いは、90年代の景気パフォーマンスの違いに少なからず影響を及ぼしたと評価できる。
  6. こうしたITストックの蓄積やTFP上昇率に関する国ごとの格差の背景を探ると、財市場や労働市場における規制の度合いと相関が高く、90年代にTFP上昇率を高めた国では、総じて規制が緩いという関係が見出せる。規制が強い国では、企業間競争が低調であったり、そこでのコーポレート・ガバナンス構造が緊張度に乏しく、ITのような革新的な投資を行うインセンティブを削ぐことになり、こうした非競争的環境では、TFPを大きく押し上げにくいと考えられる。
  7. なお、こうした観点からわが国についてみると、IT産業のプレゼンスは国際的にみて比較的高いが、ユーザー・サイドとしてのITストックの蓄積という観点では、ドイツ、フランスなど欧州主要国と比べて高いとはいえ、米国、オーストラリア、英国などの英語圏諸国と比較すると見劣りしている。ユーザー・サイドでのIT投資を積極化する余地が大きいことになるが、その実現には企業活動を巡る競争的環境を整えることが求められよう。

以上