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日本銀行の金融調節の枠組み

(本文その4)

3.金融調節の実務的枠組み

(6) 資金供給(吸収)方法の決定

 金融調節による資金供給の総額を決定した後は、どのオペレーション手段をどのような期間で使うかを決定し、オペレーション対象先に対し、入札の実行通知(オファー)を行います。当日の資金調整を目的とするオペレーション(即日スタート)は、9時20分に通知し、翌日以降の資金調整を目的とするオペレーション(先日付スタート)は、9時30分から12時10分までの間の定例時刻に通知します。

A.オペレーション手段の選択

 現在、日本銀行は、下図のような10種類のオペレーション手段を有しています。

<図表2>現行オペレーション手段

  (短期の資金供給手段24
     短期国債買い現先25、短期国債買入(アウトライト)、国債借入(レポ
     手形買入、CP買い現先、社債等担保手形買入
  (短期の資金吸収手段)
     短期国債売り現先、短期国債売却(アウトライト)、手形売出
  (長期的な資金供給)
     国債買入(アウトライト)

 これらのオペレーション手段は、市場慣行や決済方法の相違によって、機動性や売買可能金額、売買期間等の特徴が異なります。オペレーション手段の選択は、このような特徴を勘案のうえで行われます。

 日本銀行のオペレーション手段のうち、現時点で、即日スタートのオペレーションとして使用できる高い機動性を備えているのは、資金供給手段では短期国債の買い現先オペと手形買入オペ、資金吸収手段では短期国債の売り現先オペと手形売出オペに限られています26。なお、オペレーションの日中の決済時点27にも差異があります。国債系オペレーション(短期国債現先およびアウトライトオペ、国債借入<レポ>オペ、国債買入オペ)の決済時点は、3時時点(15時頃)のみですが、手形系オペレーション(手形買入オペおよび手形売出オペ、CP買い現先オペ)は、3時時点のほか、交換尻時点(13時頃)、為決時点(17時過ぎ<CP買い現先オペを除く>)でも決済が可能です。このため、銀行券発行額が嵩む日など、1日のうち比較的早い時刻から資金需要が増大する日には、交換尻時点スタートの手形系オペを活用します。

 また、売買可能金額の面では、従来は、手形買入オペが中核的な手段でしたが、1999年4月の政府短期証券の公募発行開始28に伴う短期国債市場の急速な拡大を背景に、短期国債の買い現先オペが中核的なオペレーション手段に成長しています。因みに、日本銀行の短期オペレーションによる資金供給残高が過去最高(46兆円)を記録した1999年12月末時点での、オペレーション手段毎の残高をみると、短期国債買い現先オペが最大で21.5兆円、次いで国債借入(レポ)オペが10.0兆円、CP買い現先オペ9.5兆円、手形買入オペ3.1兆円、短期国債買入オペ1.9兆円、社債等担保手形買入オペ0.5兆円となっています。

 資金供給(吸収)の期間は、政策委員会が定めた各オペレーション毎の取引基本要領によって、国債系オペレーション(短期国債現先オペ、国債借入<レポ>オペ)は6か月以内、手形系オペレーション(手形買入・売出オペ、CP買い現先オペ、社債等担保手形買入オペ)は3か月以内と決められています。もっとも、実際には、オペレーションの期間は市場の状況や金利観等に影響されるため、国債系オペが、常に手形系オペよりも長めの期間設定となっている訳ではありません。

  1.  24 短期資金供給のための手段としては、公定歩合による有担保の日銀貸出が存在しますが、1996年1月以降は、原則として、貸出に依存しない金融調節を行うこととしています。
  2.  25 「買い現先」とは、将来の特定日に売り戻す条件を付して、証券を買入れる取引を指します。取引実行日に資金が供給され、売り戻し日に資金が吸収されるため、短期間の資金供給機能を有します。「売り現先」は、逆に、買い戻し条件付の売却取引であり、短期間の資金吸収機能が有ります。これに対し、このような買いまたは売り戻し条件が付かない売買取引を、アウトライト(無条件)取引と言います。
  3.  26 オペレーション手段の機動性は、主としてオペレーション対象証券(または担保証券)の受渡事務の効率性に依存します。短期国債の現先オペの機動性が高いのは、入札オファーから決済までの一連のプロセスが、すべて日銀ネット(後述脚注33参照)を通じたオンライン・ベースで処理され、ペーパーの授受がないためです。手形買入オペは、買入対象手形の担保(優良企業振出手形、国債代用証書等)が、予め金融機関から日本銀行に寄託されているため、効率的な担保授受が可能です。手形売出オペは、日本銀行が振り出す手形を売買するもので、担保授受を必要としないことが、機動性が高い理由です。
  4.  27 脚注12参照。
  5.  28 政府短期証券は、短期的な資金繰り調整を目的に政府により発行される割引債券ですが、1999年3月までは、発行利回りが市場金利よりも低く設定されていたため、民間からの応募はほとんどなく、発行額のほぼ全額が日本銀行により引き受けられていました。しかし、1999年4月には、政府短期証券の発行は原則として公募入札方式となり、それ以降政府短期証券の市場が急速に拡大しています。

B.オペレーションの実行

 現在、日本銀行のすべてのオペレーションは、金利入札方式で実行されています。オペレーションの入札実行通知(オファー)は、即日スタートと先日付スタートに分けて、それぞれ一定の時刻に実行されます(図表3)。オペレーションのオファーは、オペレーション対象先に通知されると同時に、情報ベンダーにも公表されるため、オファー後直ちに市場全体に周知されます29。このように、日本銀行が定例時刻にオファーを行うのは、オペレーション対象先が入札に参加し易いようにするためです。このような定例の金融調節通知時刻のうち、市場から最も注目されているのは、9時20分の即日スタートのオペレーション通知時です。これは、既に述べたように、即日スタートのオペレーションにより、金融調節による当日の資金供給額が最終的に決まるからです。

 ただし、9時20分に即日スタートのオペレーションを通知した後も、決済需要や流動性リスク不安の強まり等から予想以上に資金需要が上振れし、翌日物金利が誘導水準から乖離して上昇するおそれがある場合(あるいは逆に資金供給が過剰で金利が低下する場合)には、日本銀行は、随時、追加的なオペレーションを実施し、翌日物金利の変動を抑制するように努めます。

< 図表3 >オペレーションの定例オファー時刻

9時20分:即日スタートの短期国債現先オペ、手形買入オペ、手形売出オペ

9時30分:先日付スタートの国債借入(レポ)オペ

10時10分:先日付スタートの短期国債現先オペ、短期国債買入(アウトライト)オペ、CP買い現先オペ、国債買入(アウトライト)オペ

12時10分:即日スタート(為決時点<17時過ぎ>スタート)の手形売出オペ

    :先日付スタートの手形買入オペ、社債等担保手形買入オペ、手形売出オペ

 入札のオファー後は、入札を受付け、オファー金額が満たされるように落札決定を行います。落札方式はコンベンショナル方式30です。入札締切から落札決定までの事務は、極力速やかに行い、落札決定を行い次第、落札結果(応募総額、落札総額、落札決定レート、落札平均レート等)をオペレーション対象先および情報ベンダーに通知します。落札結果が、オペ対象市場の金利形成に影響を与えることもありますが、落札結果は専らオペ対象先の入札状況に依存しており、落札結果に日本銀行の政策意図は一切含まれていません。各種オペレーションは、全体として適切な資金供給(吸収)を行うことによって無担保コール翌日物金利を適切に誘導するために行うものであり、短期国債市場やCP市場など、個別のオペレーション対象市場のターム物金利コントロールを意図したものではありません。

 ただ、短期国債の現先市場やCP現先市場等では、日本銀行のオペレーションが市場売買高の中で大きなシェアを占めています。とくに、銀行券や財政要因の変動から資金不足額が大きくなる局面においては、日本銀行がこの不足に見合うだけの十分な資金供給を行う結果、これらのオペレーション残高が増大し、市場シェアが上昇します。そうした状況では、日本銀行がオペレーション対象市場の金利低下を促しているとみられがちですが、オペレーションの目的は、あくまでも必要な資金の供給です。しかし、先に述べたように、日本では、銀行券要因や財政要因の季節的な変動が極めて大きいため、短期オペレーション残高も大きく振れることになります。この変動の大きさ故に、ある市場でディーラーの予想以上にオペレーションが実施されるようにみえたり、逆に予想していたオペレーションが実施されなくなるという状況が生じ得ます。オペレーションの実行に当たっては、資金過不足の円滑な調整のみならず、オペレーションの実行により、市場に意図せざるノイズをできるだけ発信しないようにするという点にも、配意しています。

  1.  29 1989年12月、日本銀行は、情報ベンダー6社(共同通信社、ブリッジニュース、時事通信社、ブルムバーグ、ロイター・ジャパン、Quick)に対し、金融調節に関する情報(オペレーションのオファー、落札結果等)をリアルタイムで送信する方式を導入しました。
  2.  30 コンベンショナル方式とは、入札された金利(または価格)のうち、入札実施者に有利な順に、入札予定金額に達するまで落札していく方法で、落札者は、自己が落札した金利(または価格)により取引を行います。

C.オペレーション対象先の選定

 オペレーションのオファーは、予め選定したオペレーション対象先に対して行います。オペ手段によって、毎回オペレーション対象先すべてにオファーするものと、常時オファー先と輪番オファー先31を設けているものがあります。

 日本銀行は、1998年4月の新日銀法施行を契機として、金融調節運営の透明性やアカウンタビリティーを一段と向上させる観点から、政策委員会の金融政策決定会合が定めて予め公表する基準に基づいて、定期的にオペレーション対象先を選定する方式を導入しました。オペレーション対象先には、オペレーション入札への積極的な参加、正確かつ迅速な事務処理、金融政策遂行に有効な市場情報の提供32、という役割を果たすことが求められています。このため、日本銀行は、基本的な選定基準として、次の事項を設定しています。

  • (a)日本銀行本店当座預金取引先であること。
  • (b)信用力に問題がないこと。
  • (c)日銀ネットの利用先33であること。
  • (d)オペレーション対象市場において十分なプレゼンスを有していること。
  • (e)既存対象先についてはオペレーションでの落札実績が高いこと。

 こうしたオペレーション対象先の公募選定は、1998年6月の国債借入(レポ)オペレーションから順次開始され、現在では手形買入・売出オペ(短資会社6社のみを対象に実施)を除くすべてのオペレーション手段について、公表された基準に基づく定期選定(原則として年1回)と選定結果(選定先金融機関名等)の公表が行われています。

 なお、対象先の選定は、オペレーション手段毎に市場プレゼンス等を考慮して行うため、対象先にどのような金融機関が多いかは、オペレーション手段によって異なります。主力の国債系オペでは、証券会社のウエイトが高い一方、CP買い現先オペおよび社債等担保手形買入オペでは、銀行のウエイトが高くなっています34

  1.  31 常時オファー先に対しては、毎回オペレーションのオファーが行われますが、輪番オファー先に対しては、毎回ではなく、所定の頻度(原則として2回に1回)でオファーが行われます。
  2.  32 このような市場情報の例としては、オペレーション対象市場のオファー・ビッド価格などの計数のほか、各市場での特徴的な動きなどの定性的な情報が挙げられます。
  3.  33 日本銀行金融ネットワークシステムの略称。日銀ネットは、金融機関の日銀当座預金を通じた資金決済や、国債の決済、オペレーションの入札等を、金融機関に設置されたコンピューター端末からの入力により、オンライン・ベースで処理するシステムです。日銀ネットの利用により、金融機関は、書面を日本銀行に持ち込むことなく、決済や入札を行うことができます。
  4.  34 「日本銀行は、銀行のみを対象に金融調節を行っているが、銀行の信用仲介機能が低下している状況ではc、銀行に資金供給を行っても有効に活用されない」といった議論がなされることがあります。しかし、上述のように、日本銀行の主力のオペレーション手段である短期国債の現先オペや国債借入(レポ)オペおよび国債買入オペの対象先は、証券会社が過半を占めており、しかも証券会社は、機関投資家等の顧客から広く注文を集めてオペレーションに入札しています。従って、上記のような指摘は、日銀貸出と手形オペが金融調節の中心手段であった時代はともかく、現在はあてはまりません。