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日本銀行の金融調節の枠組み

(本文その6)

5.金融調節関連情報の公表方式の見直し

(1)金融調節の透明性

 前章で述べたように、ゼロ金利政策実施以降、日本銀行の金融調節に関して幾つかの疑問が寄せられていますが、実際の金融調節は、政策委員会の金融政策決定会合のディレクティブに沿って、「豊富で弾力的な」資金供給を行い、無担保コール市場の翌日物金利を事実上ゼロ%で安定的に推移させています。従って、ターゲット金利の誘導という面で、金融調節の有効性に問題が生じている訳ではありません。しかし、市場関係者の間に、前章で紹介したような誤解や疑問が生じているのは事実です。金融調節の機能に問題はないとしても、金融調節の透明性やわかりやすさという面で、疑問が呈されているのだと思います。

 もちろん、日本銀行は、金融調節の透明性については、これまでも改善を図ってきました。前述のとおり、日次ベースで資金過不足額の予測と実績を公表しているほか、オペレーション結果のリアルタイム公表やオペレーション対象先選定基準の公開など、情報開示の拡充に努めてきました。ゼロ金利政策実施後、準備預金制度非適用先の当座預金残高が恒常的に生じるようになったことについても、1999年4月以降、日次ベースで当座預金残高の公表を開始し、準備預金残高との比較により、市場参加者が非適用先当座預金残高を容易に把握できるようにしました。

 しかしながら、既に述べたように、法定準備需要を尺度として資金供給額の多寡をみる手法は、超過準備や非適用先当座預金が恒常的に存在する状況には適合しません。超過準備等を差し引いて正しく計算をすれば、予測と実績が乖離しないことが把握はできますが、そのような資金過不足額や「積み上幅」の見方はかなり複雑です。

 また、法定準備需要が資金決済需要を上回るという前提も、RTGS化等に伴う資金決済需要の変化を勘案すれば、今後常に成立するとは限りません。以上のような点を踏まえると、金融調節およびその前提となる資金過不足に関して、市場参加者の多様な行動と、それを反映した市場全体の状況を的確に示すことができるような情報開示の仕組みが、ますます必要になっていると考えられます。予測と実績が乖離しないような公表の仕方の方が望ましいことは言うまでもありません。

(2)資金需給表および積み上幅アナウンスメントの見直し

 こうした点を踏まえ、日本銀行は、金融市場局が日々公表している「資金需給表」の形式を変更するとともに、定例金融調節実施時に行っている「積み上(下)幅見込み額」のアナウンスメントの見直しを実施することとしました(2000年2月14日発表、3月16日から実施予定)。これらの措置は、資金需給表等の金融調節関連情報の公表方式を、より適切でわかりやすい形式に改めることにより、金融調節に関するアカウンタビリティーの一層の向上を図ることを目的としたものです。

 主な変更内容は、以下のとおりです。

A.資金需給表の形式の変更

 資金需給表を、「資金過不足+金融調節=準備預金増減」という現行形式から、「資金過不足+金融調節=当座預金増減」という形式に改めます。

 当座預金は、超過準備も含めた準備預金残高および準備預金制度の非適用先当座預金残高を対象とする広い概念(下式参照)です。従って、新形式の資金需給表では、そうした当座預金全体の増減をもたらす要因のみを「資金過不足」として定義するため、当座預金の中の内訳項目である超過準備や非適用先当座預金残高がどのように増減しても、「資金過不足」の計算には影響を与えません。このため、前述のような資金過不足額の予測と実績との間に生じている大幅かつ恒常的な乖離が解消されます。

当座預金残高=超過準備額を含む準備預金残高+準備預金制度非適用先当座預金残高

B.「積み上(下)幅見込み額」のアナウンスメントの見直し

 上記のように、資金需給表の形式を当座預金ベースに改めることに伴い、即日スタートの金融調節オファー時(朝9時20分が中心)に行っている「積み上(下)幅見込み額」のアナウンスメントは取りやめ、「当日の金融調節」と、その結果としての「当座預金残高の前日比増減額見込み」をアナウンスすることとします。

例:「**オペにより、○○億円の資金供給(吸収)を行います。この結果、本日の当座預金残高は前日比△△億円の増加(減少)となる見込み」

 上記A.で説明したとおり、金融調節で供給した資金は、すべて当座預金残高の動きに反映されますので、「当座預金残高の前日比増減額見込み」額が、実績と大幅かつ恒常的に乖離することはありません。なお、既に述べたとおり、金融市場調節の基本方針は、政策委員会の金融政策決定会合で決定され、日々の金融調節はそれに定められた誘導目標を達成するように実施されます。2000年3月15日まで公表する「積み上(下)幅見込み額」や、新方式移行後の「当座預金残高の前日比増減額見込み」は、あくまでも日々の金融調節における資金供給量の多寡をみるうえでの参考計数として公表するものです。

6.おわりに

 金融調節の役割は、これまで繰り返し述べてきたとおり、ターゲット金利を適切に誘導するため、必要な資金量の調整を円滑に行うことにあります。その役割を果たすため、日本銀行は、これまでオペレーション手段の整備やその機能の改善等に努めてきました。また、金融調節の透明性の面でも、指値方式から入札方式への移行やオペレーション対象先選定の公募化など、市場メカニズムの活用を図るとともに、金融調節に関連する情報開示も充実させてきました。

 ただ、テクノロジーの進化や規制緩和、金融取引のグローバル化等に伴って、金融取引手法、取引情報伝達チャネル、取引・決済インフラなど金融調節を巡る環境は常に変化しています。金融調節が、オペレーションという市場での取引を通じて実現されるものである以上、金融調節の枠組みや手法も、市場構造等の変化に適合したものでなければなりません。今後とも、金融調節に関し、一層「わかりやすい」情報開示に努めるとともに、金融調節の円滑な遂行のため、オペレーション手段・手法のさらなる改善や、オペレーション事務の効率性向上に努めていきたいと考えています。

以上