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短期国債市場の現状とレートの特性について

2000年9月18日
愛宕伸康

(日本銀行から)

日本銀行金融市場局ワーキングペーパーシリーズは、金融市場局スタッフ等による調査・研究成果をとりまとめたもので、金融市場参加者、学界、研究機関などの関連する方々から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融市場局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに対するお問合せは、論文の執筆者までお寄せ下さい。


以下には、(要旨)を掲載しています。

  • 日本銀行金融市場局 金融市場課 E-mail:nobuyasu.atago@boj.or.jp

(要旨)

FBの公募発行が開始された昨年4月以降、わが国の短期国債(FBおよびTBの総称)市場は急速にその規模を拡大している。その市場構造をみると、余資を抱える投資家がクレジット・リスクのない優良な運用対象資産として保有しているほか、ディーラーが売り現先を使ってファンディングをしながら利鞘を稼いでいる。また、日本銀行も短期国債を利用した金融市場調節を積極化してきたこともあり、市場では突発的な資金ニーズに対応するためのオペ対応玉として一定の残高を確保している先も窺われる。

一方、短期国債の流通レートは、無担オーバーナイト(O/N)レートと中長期国債の利回りを結ぶデフォルト・リスク・フリーの短期金利として、ベンチマークの役割を期待されている。しかし、短期国債のレートは需給環境に左右されやすく、他の短期金利に比べて振れが大きい。また、信用力が高い上に資金化しやすいこともあって、流動性不安が高まる局面での"flight to liquidity"の発生や、保有短期国債を実際に売却して資金化(liquidate)する動きが、レートを不安定化させる危険性を潜在的に有している。実際、短期国債のレートを時系列分析を用いて詳しく分析すると、(1)現先レートは一旦不安定化すると暫くその不安定な状態が継続する、(2)アウトライト・レートはレート上昇方向のショックが発生した局面で特に不安定化しやすい、といった特性を確認することができる。

このように、現状、短期国債市場には、そこで形成されたレートをベンチマークとしてみるにはまだ未成熟な面はあるが、その一方で市場の厚みや参加者の多様性等からみて、ヘッジ等のインフラ整備が進めばその役割を果たす潜在力を秘めていると言ってよい。今後、こうした可能性を実現できるよう、市場整備等の観点からの継続的な検討が重要であると考えられる。

キーワード 短期国債、volatility-clustering、GARCH、EGARCH、市場流動性、ビッド・アスク・スプレッド、market-impact、Y2K、flight to liquidity