このページの本文へ移動

退職給付、ストックオプションの社会会計

----所得変化と価値の変化をどのように考えるか

2001年 3月
宇都宮浄人
萩野覚
長野哲平

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (cwp01j02.pdf 120KB) から入手できます。

要旨

 社会会計の体系では、雇用者報酬等の所得と、キャピタルゲインなど時価の変動の区別が存在するが、実際には、この区分は必ずしも明確ではない。退職給付債務やストックオプションのように、時価の変化も人件費に含まれるような「労働債務」が企業会計で認識されるにつれ、この区分に関する再検討が必要となっている。

 退職給付債務については、今後、社会会計で認識する必要があるが、企業会計と同じように時価の変動分も雇用者報酬として計上すると、(1)他の項目との平仄が取れない、(2)雇用者報酬が大きく変動する、といった問題が生じるため、調整勘定で対応する方が望ましいと考えられる。

 ストックオプションに関しては、企業会計でもその取扱いは定まっていないが、現在の社会会計の体系では付与時点で雇用者報酬を認識すべきである。企業会計では、付与時点以降のストックの変動分も雇用者報酬として認識する案も示されているが、社会会計でこのような考え方を取ると、体系の基本的な考え方と矛盾が生じることなる。

 もっとも、退職給付債務にせよストックオプションにせよ、現在の社会会計の体系が、これら新しい労働債務を適切に把握できるとは限らない。統計作成者は、つねに社会会計の新たな対応を検討してその理念と限界を広く開示すると共に、統計利用者が分析目的に応じて統計の組替えができるようにすべきである。一方、統計利用者もそうした事情を十分理解することが必要である。