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名目GDP推計における金融仲介サービスの計測法について

2001年 9月
長野哲平

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (cwp01j17.pdf 217KB) から入手できます。

要旨

 金融機関は金融仲介サービスの提供を通じて、大きな役割を果たしているにもかかわらず、国民経済計算体系(System of National Accounts:以下SNA)では金融仲介サービスが捕捉されておらず、GDPが過小評価されているとの批判が長らく存在してきた。SNAの新しい国際基準である93SNA(System of National Accounts 1993)では、このような批判を踏まえ、金融仲介サービスをFISIM(Financial Intermediation Services Indirectly Measured)という方法で計算し、最終消費支出分及び純輸出分に関して名目GDPに加算することを提言している。
 この提言を踏まえ、わが国を含め各国からFISIMを含んだベースの名目GDPが近々公表される予定だが、FISIMは金融仲介サービスを計測する手法としては様々な問題点を有している。特に、(1)金融機関が提供するサービス(預金サービス、貸出サービスなど)が個別具体的に計測されないため、計測結果がどのサービスに相当するのかが不明瞭であること、(2)金利変動に伴う利鞘の変動が金融仲介サービスに混入しており、そもそもサービス生産の指標として不適切であること、の2点が理論的にみて大きな問題である。我が国の計測結果をみても、バブル崩壊以降、金利変動が大きく、現在名目金利がゼロ制約に突き当たっているために、以上のFISIMの問題点が計測値に大きな歪みを生じさせている。
 本稿では、このような問題意識に基づき、まず、FISIMの理論的な問題点を指摘する。次に、このような問題点を回避する手法の一つであるユーザーコスト・アプローチを用いて、わが国について金融仲介サービスの計測を行い、その結果をFISIMによる計測結果と比較する。その結果、名目金利がゼロ近傍まで低下した98年度以降については、FISIMによる計測結果とユーザーコスト・アプローチによる計測結果には大きな乖離が認められ、名目GDP成長率にも無視できない差が生じることが示された。