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日本の金融政策からの教訓

2001年 2月 7日・ヴュルツブルク大学における松田フランクフルト事務所長講演要約

2001年 2月26日
松田邦夫

日本銀行から

海外事務所ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行海外事務所スタッフ等によるリサーチ活動の成果をとりまとめたもので、金融市場参加者、研究者等、有識者の方から幅広くコメントを頂戴する事を企図しています。ただし、論文の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは各海外事務所の公式見解を示すものではありません。

全文(ドイツ語)はこちら(英語版ページに掲載しています)をクリックして下さい。


 日本において生じたバブルは当時として必ずしも新しいものではなかったし、今日においても決して過去のものではない。90年代の日本を「失われた10年」として片付けるには、あまりに多くの教訓を含んでいる。

 バブルに関しては、次の点が思い起こされるべきである。(1)バブルは良好な経済・物価のパーフォーマンスの下において生じる、(2)大きな構造変化が生じているかのように見える局面では、バブルは十分正当化できるものと誤認されがちである、(3)経済面での過度の自信・楽観や国際協調、為替相場への行き過ぎた配慮は金融政策面で迅速果断な措置を取ることを困難にする。

 最近におけるニューエコノミーを理由とする株式市場の熱狂、いくつかのユーロ圏諸国における資産価格の上昇等にバブル的な要素がないとは言い切れない。ユーロ圏の統一金融政策下では政府と各国中央銀行の一層の対話が極めて重要になっている。

 バブルの教訓としてさらに、次の点を挙げることが出来る。(1)通貨量の増大と技術革新や構造改革進展との関係や資産価格への影響の評価は難しい、(2)銀行監督面での枠組み整備とミクロ情報の金融政策への応用が重要である。

 ゼロ金利政策も異例ながら極めて重要な経験である。ゼロ金利政策は明らかにデフレ的悪循環を回避するのに貢献した。しかし、日本銀行も政府も、極めて異例の拡張的政策にもかかわらず、経済を自律的成長軌道に復帰させることにはまだ成功していない。このことは、民間部門に大きな問題が残されていることを物語っている。

 こうした経験をも踏まえて、日本銀行は昨年10月に物価安定に関する分析と、経済見通しの公表を開始した。これは金融政策の透明性を一段と向上させた。一方、日本銀行はインフレーション・ターゲッティングは、その効果の不確実さ等に鑑み採用していない。この2つはECBにも共通の経験である。

 為替政策は今日金融政策にとっても重要な事項である。日本の状況とは異なり、ECBはユーロ圏で為替介入に関し権限を持つ唯一の主体である。ただ、将来高くなり過ぎたユーロを弱くするための介入が期待される事態になったときに、最終目標たる物価安定との間で相克が生じる可能性は否定できない。