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輸入浸透度と消費者物価

2002年 2月
鎌田康一郎
平形尚久

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(日本語要旨)を掲載しています。全文は、こちら (cwp02e01.pdf 246KB) から入手できます(英語のみ)。

目的

 本稿の目的は、1980年~2001年にかけて、わが国の国際競争力の変化が、わが国の消費者物価にどの程度の下落圧力をもたらしたのかを定量化することにある。

 最近の物価下落の背景としては、(1)90年代のはじめにバブル経済が崩壊して以来の需要低迷に加えて、(2)国内外で進行している技術革新や、(3)アジアからの安値輸入品の影響の3点が指摘されている。

 特に第3の点に関して、過去10年間における中国からの輸入増には、目覚しいものがあった。アジア経済からの安価な輸入品は、消費者物価下落の直接的な要因となったほか、国内輸入競合品の価格を引下げることによって、物価下落の間接的な要因としても作用したと考えられる。

 このように、交易活動の変化は、わが国の物価動向を見据えるに当たって、重要なファクターであると考えられる。こうした観点から、本稿では、輸入浸透度(=輸入/生産)に着目し、わが国の国際競争力の低下が消費者物価の下落に大きな影響を与えてきたことを実証する。

手法

 先の議論を踏まえると、わが国の消費者物価を論ずる場合、少なくとも次の3種類の構造ショックを念頭に置く必要があろう。すなわち、国家間の比較優位に影響を与えるショック、世界的な技術進歩を促進するショック、そして、景気循環をもたらすショックである。

 これらの構造ショックは直接観察することができないので、本稿では、これらのショックが、さまざまな経済変数に与える固有の効果に着目する。スタンダードな比較優位モデルによれば、各構造ショックは以下のような長期的効果を持つ。

  1. (1)比較優位が上昇すると、輸入浸透度が低下する。
  2. (2)世界的に技術進歩が起こると、相対的な競争力は不変なので、輸入浸透度も不変であるが、各国の実質生産量は増加する。
  3. (3)景気循環を引き起こす一時的なショックは、輸入浸透度や実質成長率に長期的な影響を与えない。

 本稿では、これらの長期制約を取り込んだ構造VARを計測して、消費者物価の変動を、比較優位ショック、世界生産性ショック、景気循環ショックという3つのショックに分解する。

結果

インパルス応答

 各構造ショックが経済にいかなる影響を与えるのか、インパルス応答を用いて解析したところ、生産性の変化はわが国の消費者物価に次のような影響を与えていることがわかった<別添図表(1)>。

  1. (1)わが国の比較優位が低下すると、わが国の消費者物価は下落する。
  2. (2)世界的に生産性が上昇すると、わが国の消費者物価は一時的に低下した後、半年程度で上昇に転じ、2年後には元の水準を上回る。

予想誤差の分散分解

 予測誤差の分散分解を行って、生産性の変化が消費者物価に与える長期的な効果を定量化したところ、以下の点が明らかになった<別添図表(2)>。

  1. (1)比較優位ショックが消費者物価変動の5割程度を説明する。
  2. (2)比較優位ショックと世界生産性ショックを併せて供給側のショックとみなすと、供給ショックが消費者物価の7割を説明する。

物価変動の寄与度分解

 実際に過去どのようなタイミングでどの程度の構造ショックが起こったのかを分析した。主な結果を当時の経済状況と併せて解釈すると、以下のようになる<別添図表(3)>。

  1. (1)1980年代、円高不況下とともに始まったディスインフレは、わが国の比較優位の減退(=輸入浸透度の上昇)が原因の一つである。
  2. (2)1990年代を通じて、わが国の比較優位の減退が物価下落に大きく寄与してきた。特に、90年代末に至って、中国からの安値輸入品が流通合理化を推し進める過程で、消費者物価に強い下押し圧力が加わった。

以上


(別添図表)

構造VARによる消費者物価の分析

(1) 構造ショックに対する消費者物価のインパルス応答

  • 構造ショックに対する消費者物価のインパルス応答を示すグラフ。詳細は本文の通り。

(2) 消費者物価の予想誤差の分散分解

  • 消費者物価の予想誤差の分散分解による各ショックごとの寄与率の面グラフ。詳細は本文の通り。

(3) 消費者物価変動の寄与度分解

  • 消費者物価の変動を各ショックごとに寄与度分解したグラフ。詳細は本文の通り。