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韓国の金融改革について

−改革の概要と日本との比較−

2002年10月21日
赤間弘
野呂国央
多田博子

日本銀行から

日本銀行国際局ワーキングペーパーシリーズは、国際局スタッフによる調査・研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは国際局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに対するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せください。

以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (iwp02j03.pdf 838KB) から入手できます。

 最近、韓国の金融改革に対する評価が高まっており、「日本も韓国から学ぶべき」との論調も聞かれる。そこで、本稿では、韓国の金融改革を概観し、日本との相違点やインプリケーションについて簡単に整理する。

要旨

韓国における金融危機発生の原因と特徴

  • 韓国では、1997年に、過剰投資を背景とする財閥の相次ぐ破綻から、金融危機が発生した。IMF融資を仰いだほか、危機発生直後に約半分の商業銀行の自己資本比率が8%を下回る(一部先は債務超過)など、危機の「深さ」という点では、日本より深刻な金融危機であった。ただ、韓国では、資産バブルが発生しなかったほか、銀行の株式に対するエクスポージャーも比較的小さかった(韓国では、財閥の系列企業間の株式持ち合い構造がある一方で、銀行と財閥間の株式持ち合い構造はない)ことなど、不良債権問題を長期化させる要因は少なかった。
  • 財閥の過剰投資は、1990年代の自由化措置(財閥の投資やノンバンク設立の自由化)により、政府の財閥に対するコントロールが一段と低下するなかで、銀行のモニタリング機能や財閥に対する株主のガバナンスが強化されなかったことが背景となっている(見方を変えると、通貨危機後、財閥に対するガバナンスやチェック体制が構築されているかが、現在の韓国経済を評価する上での重要なポイントとなる)。

韓国の金融リストラの概要と特徴

  • 韓国の金融リストラの特徴としては、以下の点が挙げられる。
    • (1) 政府が、短期間(約4年間)に強制的な公的資本投入を実施(資本注入、不良債権買取り、預金保護等にGDP比30%の資金を投入)するとともに、金融機関再編(銀行数1997年末26行→現在12行2グループ)を断行したこと
    • (2) 改革がアドホックでなく包括的であったこと(企業リストラ、労働市場改革等を同時並行的に実施)
    • (3) 外資の積極活用(資本参加と経営陣派遣により、ガバナンスやリスク管理能力を強化)
  • このうち、商業銀行への公的資本注入は、過少資本先(自己資本比率8%未満)に対して強制的に行ない、その際、経営陣の退陣や減資を求めている。政府は、普通株を取得し、数値目標(不良債権比率、自己資本比率、ROA、ROEなど)を課すことにより、銀行経営に関与している(経営陣は派遣していないが、数値目標が達成されなかった場合には、経営陣が責任を問われる)。また、政府は、株式の市中売却により資金回収を行なう計画であり、既に、一部実行されている。
     なお、公的資本投入は、商業銀行のみではなく、ノンバンク(総合金融会社、投資信託、保険会社等)に対しても広範囲に亙って実施されている。
  • 不良債権の買取りは、時価で行われており、資産管理公社(KAMCO)は、これまでにGDPの20%に上る債権(簿価ベース)を取得している。また、KAMCOは、直接回収や競売のほか、ABS発行などを活用して、回収率の向上に努めている。
     なお、KAMCOの積極的なABS発行の副産物として、不良債権以外を原資産とするABS市場が急拡大している。
  • また、危機発生直後に、全ての預金(商業銀行だけでなく、総合金融会社などの預金を含む)の全額保護を期限付きで行なった(2001年初に、予定通りペイオフを解禁)。
  • この間、改革のデフレ・インパクトに対応して、雇用対策(雇用保険の拡充、パブリック・ワーク<政府による雇用機会提供>)、公共投資の拡大、中小企業設立の特別減税置を実施している。

金融システムの改善状況

  • 商業銀行のバランスシートは、大幅に改善している(不良債権比率2002年6月2.4%、自己資本比率2002年3月10.8%)ほか、収益も、不良債権の減少や人員削減によるリストラ効果などから、2001年には5期振りに黒字に転化している。
  • 株式市場の評価もポジティブであるほか、格付けも順調に回復している。さらに、2001年初にペイオフを解禁した際にも目立った混乱はなかった(なお、決済性預金は2003年まで保護されることとなっている)。
  • この間、銀行の金融仲介機能も個人向けを中心に回復してきている。

残された課題など

  • 公的資本注入と不良債権切り離しによって、商業銀行の財務内容は大きく改善しているが、企業リストラは、過剰債務の是正余地が残るなど不十分な面もある。
  • また、政府の銀行株の放出も、市場メカニズムの強化による企業リストラ推進の観点から、引き続き、着実に行なっていく必要がある。

わが国に対するインプリケーションについて

  • 韓国政府が、金融機関から大量の不良債権を迅速に切り離すとともに、これを集中的に処理していることが、不良債権市場の整備・発達を通じたスムーズな不良債権処理や金融仲介機能の早期回復に繋がっているという経験は、日本にも参考となろう。なお、アジア諸国では、韓国のほか、マレーシアも公的資金を早期に投入し金融リストラが比較的進捗していることが評価されている。
  • 韓国でも、日本と同様に、自己資本比率が8%を上回る先には強制的な資本注入は行なっていない。ただ、資産査定の厳格化に伴う自己資本の減少に対応して、公的資本注入を行なった部分はある。邦銀は、これまでの不良債権処理や株価下落によって不良債権処理への備えが減少しており、仮に過少資本に陥った場合には、韓国のケースは参考になろう。
  • 但し、韓国で、政府の強力な介入が行われた(また、政府が介入し得た)背景には、(1)IMF支援を受けるなど金融危機が深刻であったこと(政府介入の正当性)、(2)大統領制(政治的リーダーシップが発揮し易い)、(3)銀行数が少ないこと(処理の容易さ)、(4)政府債務が小さかったこと(公的資金の投入余地)、(5)輸出比率が高い(約35%)ため、為替レートの大幅下落が、金融リストラのデフレ・インパクトを吸収し得た(不良債権処理と景気回復の両立)点など、わが国と異なる事情が大きく働いた点は、日本へのインプリケーションを考える際に、十分考慮すべきである。