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わが国のレポ市場について

理論的整理と実証分析

2002年 1月11日
稲村保成*1
馬場直彦*2

日本銀行から

日本銀行金融市場局ワーキングペーパーシリーズは、金融市場局スタッフ等による調査・研究成果をとりまとめたもので、金融市場参加者、学界、研究機関などの関連する方々から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融市場局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに対するお問合せは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(要旨)を掲載しています。

  1. *1日本銀行 金融市場局 金融市場課 e-mail: yasunari.inamura@boj.or.jp
  2. *2日本銀行 金融市場局 金融市場課 e-mail: naohiko.baba@boj.or.jp

(要旨)

 レポ取引は、資金および債券の運用・調達手段として広く用いられている。このうち、資金貸借的な性格のレポ取引をGC(General Collateral)レポ、債券貸借的な性格のレポ取引をSC(Special Collateral)レポと呼ぶ。レポ取引の資金貸借的な側面は、レポ市場とインターバンク市場をはじめとする他の短期金融市場との間に、また債券貸借的な側面は、レポ市場と債券市場との間に密接なリンクを発生させる。

 本稿は、後者のレポ市場と国債(現物)市場のリンクに焦点を当て、わが国レポ市場におけるレート形成メカニズムについて分析を試みたものである。レポレートの多くは、リスクフリー・レートに近い水準でプライシングされる(GCレポレート)。しかし、担保となる債券銘柄によっては、GCレポレートよりも低い水準でレートが形成されることがある(SCレポレート)。Duffie(1996)やKrishnamurthy(2001)は、こうした銘柄間において生じるレポレートの相違について、(1)レポ取引と現物債券の売買を組み合わせた裁定ポジションの収益がゼロになるように各銘柄のレポ・スプレッド(GCレポレート−SCレポレート)と現物価格の均衡が達成されること、(2)その均衡水準はレポ市場における担保債券銘柄の需給動向に依存すること、(3)SC化した債券銘柄の現物価格には、将来マッチド・ブック運用(レポレート間の格差を利用した資金運用)を行った場合に期待される収益が反映されること、を理論的に明らかにした。

 本稿では、わが国のレポレートと国債価格データを用いて、こうした理論的なインプリケーションを検証した。その結果、新発10年国債、および長期債券先物の受渡適格最割安銘柄(チーペスト)に関して、SC化した銘柄の市場価格とSC化していない銘柄の市場価格の差として定義される現物価格プレミアムとレポ・スプレッドの間には、理論が示唆するような裁定関係が存在することが判明した。

キーワード:
レポ市場、国債市場、無裁定条件、レポ・スプレッド、現物価格プレミアム、新発債、チーペスト、ショート・セール