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株価からみた市場の期待形成

1998年以降の実証分析

2002年 7月26日
今久保圭*

日本銀行から

日本銀行金融市場局ワーキングペーパーシリーズは、金融市場局スタッフ等による調査・研究成果をとりまとめたもので、金融市場参加者、学界、研究機関などの関連する方々から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融市場局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに対するお問合せは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (kwp02j05.pdf 308KB) から入手できます。

  • 日本銀行金融市場局金融市場課 (現 人事局)

(要旨)

 本稿は、株価情報からマクロ経済指標に対する市場の期待を抽出することを目的としている。具体的には、マルチファクター・モデルを用いることによって、ファクターリスク・プレミアムという形で、株式ポートフォリオの変動から、マクロ経済指標のイノベーションとして定義されるファクターリスクに対するプライシングを観察する。推計されたファクターリスク・プレミアムを観察することにより、マクロ経済指標と株価の事後的な関係をみるだけでは得ることのできない、市場の期待形成に関する追加的な情報を得ることができる。

 本稿では、東証1部33業種の株式ポートフォリオを用いて、(1) 生産活動要因、(2) インフレ要因、(3) 為替要因、(4) クレジット要因、(5) 長期金利要因、(6) 短期金利要因の6個のマクロ経済指標のファクターリスク・プレミアムを時系列的に観察している。また、1998年から2001年までの期間でTOPIX(東証1部株価指数)が似通った動きをしていた局面をピックアップし、ケース・スタディ的にプレミアム動向の比較を行っている。その結果、同様にみえる相場上昇・下落局面であっても、株式市場ではマクロ経済動向に対して異なる期待が形成されている可能性が示された。とりわけ、近年のゼロ金利・量的緩和政策により、長短金利が低水準で安定的に推移する中で、金利指標から市場参加者の期待を把握することは困難になってきている。こうした観点からも、マルチファクター・モデルにより推計されるファクターリスク・プレミアムは、重要な意味を持っている。