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製造工業生産予測指数からみたわが国企業の生産計画策定と修正パターン*

2003年 6月
企業調査グループ

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (cwp03j05.pdf 353KB) から入手できます。

要旨

 「製造工業生産予測指数」(以下、予測指数)の修正パターンをみると、(1)一旦はずれると同じ方向に暫くはずれ続ける(生産拡大局面では実績が予測を上回り続け、生産調整局面では実績が予測を下回り続ける)、(2)その「はずれ方」は、生産拡大局面よりも生産調整局面で大きくなる、(3)特に2001年を中心とする生産調整局面での「はずれ方」が激しい、などの特徴がある。

 また、その背景にある業種別予測指数の修正パターンを詳しく検証してみると、業界構造、生産工程、製品特性などに起因する以下のような各業種特有の修正パターンが存在し、そのうち上述した製造業全体の予測指数の修正パターンには、電気機械のパフォーマンスが大きな影響を与えている。

<生産予測指数全体の振れに大きく影響する業種> (1) 電気機械では、需要変動にある程度柔軟に対応できる生産体制が構築されており、生産計画が頻繁に変更されるため、予測指数は上下いずれの方向にもはずれやすい。1999年以降は、IT関連財需要に対する過大な期待が、業界構造の多層化・複雑化等と相俟って、予測指数の振れを拡大し、特に2000年末以降の実績下振れ幅を拡大した。

<実績が予測よりも常に下振れる傾向を持つ業種> (2) 化学は、製造工程が川上から川下に向かって多段階になっているだけでなく、ひとつの原料から複数の製品が同時に生成される複雑な体系になっている(「連産体系」)。その中で、全体の生産計画が当初は高めになってしまう傾向がある。このように設定された生産計画は、最終的には実際の出荷に見合うかたちで調整されることから、結果として実績値が予測を下回ることになる。

<実績が予測よりも常に上振れる傾向を持つ業種> (3) 鉄鋼では、当初、需給均衡を意識した慎重な生産計画が報告される傾向があるため、実績値が自然と上振れやすい。また、高炉各社間のシェア獲得競争が激化した1999年から2000年にかけては、下位メーカーがしばしば押込販売に走ったため、こうしたことも実績値が予測を上回る傾向に繋がったと考えられる。

<あまり予測修正が行われない業種> (4) 輸送機械(自動車)では、受注状況を参考とする月次生産計画が、遅くとも前月中旬には確定する。また一旦生産計画が確定すると、部品メーカーの生産リードタイムといった物理的な制約から、大幅な変更は加えられにくいため、実績値は予測値からあまりはずれない。

* 本稿の作成にあたっては、多くの方に有益な助言を頂いた。特に、松林洋一 神戸大学助教授や高橋朗氏(パーデュー大学)からは、多大な助力を得た。この場を借りて深く感謝の意を表したい。なお、本稿の内容や見解は全て企業調査グループのものであり、日本銀行または日本銀行調査統計局の公式見解を示すものではない。本稿に関する質問は、日本銀行調査統計局企業調査グループ愛宕伸康(E-mail:nobuyasu.atago@boj.or.jp)まで問い合わせされたい。