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名目金利の非負制約とインフレのコスト比較

2003年 7月
寺西勇生

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(要旨)を掲載しています。

要旨

Summers(1991)は、金融政策運営における名目金利の非負制約への対応策として、中央銀行が、名目金利がゼロに貼りつく前から、常に事前にインフレ率を正に保つように行動することを提案している。こうすることで、経済に対する負のショックから生じる社会的な損失を小さくすることができるとしている。しかし、このサマーズ効果を巡る議論では、しばしば、名目金利がゼロに陥るリスクを軽減できるという利点のみが強調されており、正のインフレ率自体がもたらす社会的な損失が明示的に考慮されていない。

本稿は、名目金利がゼロに貼りつく前からインフレ率をプラスに保つことによるベネフィットとコストの双方を取り上げ、両者のトレード・オフ関係が、事前に設定すべき望ましいインフレ率の水準を決定することを示す。そのうえで、簡単な理論モデルを用いたシミュレーションによって次の2点を示す。1点目は、ベネフィットがコストを上回るような小幅の正の事前のインフレ率(ショックが発生する以前から保たれているインフレ率)が確かに存在する。加えて、過去の平均的な日本経済においても、こうした正の事前のインフレ率が存在している。2点目は、望ましい事前のインフレ率の水準は、経済がどれだけフォワード・ルッキングであるかという程度や、与えるショックの大きさ、その持続性等に大きく依存する。