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金融機関の資金取引ネットワーク

2003年 7月30日
稲岡創*1
二宮拓人*2
谷口健*3
清水季子*4
高安秀樹*5

日本銀行から

日本銀行金融市場局ワーキングペーパーシリーズは、金融市場局スタッフ等による調査・研究成果をとりまとめたもので、金融市場参加者、学界、研究機関などの関連する方々から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融市場局の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに対するお問合せは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には(要旨)を掲載しています。全文は、こちら(kwp03j02.pdf 349KB) から入手できます。

  1. *1東京大学大学院新領域創成科学研究科 e-mail: inaoka@eri.u-tokyo.ac.jp
  2. *2日本銀行金融市場局 e-mail: takuto.ninomiya@boj.or.jp
  3. *3日本銀行金融市場局 e-mail: ken.taniguchi@boj.or.jp
  4. *4日本銀行金融市場局 e-mail: tokiko.shimizu@boj.or.jp
  5. *5株式会社ソニーコンピューターサイエンス研究所 e-mail: takayasu@csl.sony.co.jp

本稿の作成に当たって、日本銀行金融市場局スタッフから有益な示唆を得た。記して感謝したい。本稿に残された誤謬は、すべて筆者達に帰するものである。

(要旨)

 金融機関が経済社会に対して提供する資金取引の仕組みは、単独の金融機関によって実現できるものではなく、各金融機関が相互に資金をやり取りするなど、互いに複雑な協力関係、すなわちネットワークを築くことによって実現される。金融機関の間のネットワークに関する定量的な分析は、データの制約もあり、これまで必ずしも十分に行われてこなかった。本稿では、日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)のRTGS(リアルタイム・グロスセトルメント)化後に入手可能となった金融機関間の資金振替記録を用いて解析を行った。

 解析には、統計物理学の分野でここ数年研究が進んでいるネットワーク構造分析の手法を用いた。ネットワーク構造とは、一般に、多数の要素(ノード)を含んだ系中に作られる、要素間の結びつき(リンク)からなる構造をいう。金融機関間の資金取引による協力関係も、金融機関をノード、資金取引による何らかの結びつきをリンクと考えれば、ネットワーク構造を形成していると捉えることができる。分析の結果、金融機関の間で行われる資金取引のネットワーク構造は、自然界に存在するネットワーク構造やインターネットの構造と同様、フラクタル性が見られることが明らかになった。また、中核となる金融機関へのリンクの集中度が高い構造、すなわち相対的にみて安定性よりも経済効率性を重視した構造を有していることが分かった。ただし、インターネットなど物理的なリンク(ケーブル等)を必要とするネットワークと異なり、資金取引ネットワークなどハードウェアを必要としないネットワーク構造を評価する上では、動態的な安定性も勘案する必要がある。この点については、一定の頑健性を有する可能性を示唆する結果も得られており、今後の研究課題である。