特許等使用料収支の黒字化について*1
2004年 3月
山口英果*2
日本銀行から
日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局広報課までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。
以下には(要旨)を掲載しています。全文は、こちら(wp04j05.pdf 131KB) から入手できます。
- *1本稿の作成過程で、日本銀行国際局、調査統計局スタッフから有益なコメントを受けた。この場を借りて感謝の意を表したい。もちろん、あり得べき誤りは筆者に属するほか、本稿に示された意見・見解は筆者個人のものであり、日本銀行あるいは同国際局のものではない。
- *2国際局国際収支課
(要旨)
- 国際収支統計における「特許等使用料」は、特許権(パテント)使用料以外に、商標権・意匠権・実用新案権・著作権等の使用料、技術指導料等を含む概念である。わが国の特許等使用料の収支は、統計始期1以来赤字であったが、2003年に初めて黒字へ転化した2。これは、わが国製造業が貿易摩擦の回避、円高によるコスト競争力低下への対策、WTO加盟国拡大に伴う市場参入コストの低下等を背景に生産のグローバル化を進めてきた結果、海外現法(非居住者)からのロイヤリティー受取が増加したため。
- 足許の動きを見ると、業種では輸送用機械、地域では北米からのロイヤリティー受取増加が、黒字化に大きく寄与した。日本車の海外生産は、今後も北米・欧州を中心に増加すると見込まれるほか、アジアでの生産も立ち上がりつつあることから、当面、特許等使用料の収支尻は黒字拡大方向で推移する見通し。
- もっとも、日本企業のソフトウェアの競争力は依然脆弱(著作権等使用料は恒常的に赤字)。足許の黒字転化も輸送用機械・電気機械といった一部業種の企業内貿易に依存したものであり、知的財産におけるわが国企業の競争力が大きく向上したとは言い切れない点には、注意が必要であり、今後は真の技術立国に向けて、ソフト・ハード両面で企業外取引の受取を増大させていくような技術の一段の向上や成熟化が望まれる。
- IMF国際収支マニュアル第3版に準拠した統計の始期は1961年。1979年から同第4版、1996年から同第5版準拠。
- 以下本稿中の国際収支統計は、2003年9月以前の計数は確報値、2003年10−12月、及び同期間を含む計数は速報値。