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量的緩和政策下におけるマイナス金利取引:円転コスト・マイナス化メカニズムに関する分析*1

2004年 6月
西岡慎一*2
馬場直彦*3

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。

商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局広報課までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

以下には(要旨)を掲載しています。

  1. *1本稿の作成にあたり、日本銀行スタッフから数多くの有益な示唆を受けた。また、メイタン・トラディション社から、ユーロ市場レートをご提供いただいたほか、データ・ベース作成に当たっては、末吉孝行、法眼吉彦、渡邊麻実各氏の協力を得た。記して感謝したい。もちろん、有り得べき誤りは全て筆者達に帰するものである。また、本稿に記された意見・見解は筆者達個人のものであり、日本銀行及び金融市場局の公式見解を示すものではない。
  2. *2金融市場局 e-mail: shinichi.nishioka@boj.or.jp
  3. *3金融市場局 e-mail: naohiko.baba@boj.or.jp

(要旨)

本稿は、2001年3月に導入された量的緩和政策の下で恒常的に観察される、為替スワップ市場における外銀の円転コストのマイナス化メカニズムを明らかにすることを目的としている。主な結論は以下のとおりである。(1)外貨市場での調達コストと為替スワップ市場を介した外貨調達コストの間で無裁定条件が成立する下では、外銀の円転コストは、外銀の円市場における調達コスト(リスクフリー・レート+信用リスク・プレミアム)に、邦銀に対する信用リスク・プレミアムの内外市場間格差を加味したものとなる。(2)最近の円転コストのマイナス化現象は、ドル市場における邦銀の信用リスク・プレミアムが、円市場対比で大きいことに起因している。(3)この邦銀に対する信用リスク・プレミアムの内外市場格差は、1990年代前半から既に存在していたが、円リスクフリー・レートが低下するに連れて顕現化し、最近の円転コスト・マイナス化の主因となっている。(4)ただし、円転コストがマイナスに転じた場合でも、リスクフリーの日銀当座預金との裁定が制約なく行われれば、本来速やかにゼロに戻る。しかし、日銀に対するクレジット・ラインの設定等、外銀の当座預金保有額に制約があり、十分に裁定が働かないため、円転コストはマイナスのまま推移している。

キーワード:
円転(円投)コスト、マイナス金利、為替スワップ市場、信用リスク・プレミアム、無裁定条件、量的緩和政策