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貯蓄率の長期的低下傾向をめぐる実証分析:ライフサイクル・恒常所得仮説にもとづくアプローチ *1

2004年 8月
古賀麻衣子*2

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

以下には[概要]を掲載しています。全文は、こちら(wp04j12.pdf 330KB) から入手できます。

  1. *1 本稿の作成にあたっては、福田慎一氏(東京大学)、チャールズ・ユウジ・ホリオカ氏(大阪大学)、八代尚宏氏(日本経済研究センター)及び、西崎健司氏(日本銀行調査統計局)、肥後雅博氏(同)をはじめ、多くの日本銀行スタッフから有益なコメントを頂戴した。この場を借りて、感謝の意を表したい。なお、本稿における意見などは、すべて執筆者の個人的な見解であり、日本銀行および調査統計局の公式見解ではない。
  2. *2日本銀行 調査統計局 経済分析担当 (E-mail:maiko.koga@boj.or.jp)

概要

 近年、わが国の家計貯蓄率の低下傾向が顕著となっている。わが国の貯蓄率については、これまで「他の先進諸国と比較して高い」という認識が一般的であったため、この背景について、とりわけ関心が高まっている。しかし、この貯蓄率低下にどのような要因が寄与しているかについての時系列的な分析は十分ではない。こうしたことから、本稿では、貯蓄率の長期的な低下傾向に関する実証分析を行った。

 分析手法の特徴をまとめると、次の通りである。ライフサイクル・恒常所得仮説にもとづいて、所得の不確実性下での家計行動と人口動態の影響を考慮したモデルで貯蓄率を理論的に定式化した。まず、家計の最適な貯蓄率を導出し、次に、これを家計が年齢層に応じて異なるライフサイクル・カーブをもつことを考慮した上で集計し、マクロの貯蓄率を導出した。この過程で、マクロの貯蓄率と人口動態の影響を結び付けた。このモデルは、高齢化の効果以外の人口動態の影響についても綿密に考慮することが可能な方法であるとともに、統計から正確に把握することが困難な貯蓄率のライフサイクル・カーブを、これが山型に推移するという簡単な仮定を置くことで、分析に取り入れている。この2点において、本稿は、貯蓄率の分析における新しいアプローチを採用している。

 上記の定式化にもとづき、貯蓄率とこれを決定する要因について実証分析を行った結果、統計的な長期均衡関係が確認された。また、そこからの乖離を修正し長期均衡水準に戻ろうとする短期的な調整メカニズムを誤差修正モデルで表現すると、その推計値は、貯蓄率の動きをフォローする良好なパフォーマンスを示した。推計結果から、人口動態要因は、特に90年以降は高齢化を背景として、貯蓄率に趨勢的な下落傾向をもたらしていること、将来所得の不確実性を背景とした予備的貯蓄要因は、足許の貯蓄率の下支え要因としてはたらいていることが確認された。