ゼロ金利環境下での金融政策と金利の期間構造
--潜在金利モデルとマクロ・ファイナンス・アプローチ--
2006年9月
一上響*1
上野陽一*2
全文は英語のみの公表です。
要旨
1990年代半ば以降の日本のように、短期金利が低水準で推移する状況では、その非負制約が長期金利に大きく影響していたと考えられる。本稿では、Black(1995)により提案された潜在金利モデルを用い、金利の期間構造のデータから市場の金融政策に対する見方を抽出したうえで、同政策の長期金利への影響を分析した。また、潜在金利モデルにインフレ率を組み込んでマクロ・ファイナンス・モデルに拡張し、実質金利の期間構造を算出した。
主な結論は、以下の通り。(1)推計された潜在金利は1997年以降マイナスで推移しており、ゼロ金利政策開始以前に短期金利が引き下げ余地の乏しい水準に達していると市場参加者に認識されていたことが示唆される。(2)ゼロ金利政策の継続期間に対する予想が長期化すれば潜在金利が低下するという意味で、予想期間と潜在金利は1対1の対応関係を持つ。日本銀行のコミットメントは潜在金利(予想期間)とCPIのリンクを強めたとみることができ、このコミットメントを通じてゼロ金利下でも、CPIの水準次第で長期金利が動くようになった。これは、いわゆる時間軸効果の一つの解釈とみることができる。(3)一方、ポートフォリオ・リバランス効果などを通じたターム・プレミアムの低下は観測されるものの、統計的に有意な結果は得られなかった。(4)長期の実質金利は短期金利同様、ゼロ金利下では期待インフレ率と強い逆相関を持ち、01-03年の最もデフレの厳しかった時期には上昇し、足許では低下している。(5)実質金利の期間構造は、短期を除き、1.15%程度でフラットであり、その変動は大きくない。従って、名目金利の傾きや変動にはインフレ・リスク・プレミアムが大きく影響しており、フィッシャー方程式が成立しないことが示唆される。こうした結果は、米国における最近の実証結果と概ね整合的である。
- *1金融市場局 e-mail: hibiki.ichiue@boj.or.jp
- *2金融市場局 e-mail: youichi.ueno@boj.or.jp
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