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非上場企業におけるコーポレート・ガバナンス

2006年 3月
福田慎一*1
粕谷宗久*2
中島上智*3

要旨

 本稿では、デフレ下の日本経済における非上場企業のパフォーマンスの決定要因を、ガバナンス構造に注目して考察した。一般に、中堅・中小の非上場企業は、潜在的な成長可能性が高い企業が多い反面、上場企業と比べてその所有構造が特殊な企業が多い。われわれの対象とした非上場企業でも、特定の個人株主や親会社の持ち株比率が極めて高い企業や、従業員持ち株比率が大きい企業など、上場企業では見られない所有構造の企業が数多く存在している。非上場企業のトービンのq(営業利益の割引現在価値)の決定要因を推計した場合、非上場企業の所有構造は、財務データなど標準的な財務変数に加えて、各非上場企業のパフォーマンスに対して有意な影響を及ぼすことが明らかになった。ただし、その影響は、企業の業績が良い場合と悪い場合で、全く異なっていた。特に、特定の個人株主や親会社の持ち株比率の上昇は、業績が良い企業ではプラスに働いた反面、業績が悪化した企業では逆にマイナスに働いていた。本稿の結果は、伝統的にうまく機能していた日本の非上場企業のガバナンス構造が、デフレ下の日本経済では逆にその業績を大きく低迷させた可能性を示唆するものである。

本稿の作成にあたっては、早川英夫局長をはじめとする日本銀行調査統計局のスタッフの方々から有益なコメントをいただいた。また、高橋慎氏にはデータの整理等で協力していただいた。なお、本稿で述べられた意見、見解は、筆者個人のものであり、日本銀行あるいは調査統計局のものではない。

  1. *1東京大学
    E-mail: sfukuda@e.u-tokyo.ac.jp
  2. *2調査統計局
    E-mail: munehisa.kasuya@boj.or.jp
  3. *3東京大学

日本銀行から

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