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価格マークアップとフィリップス曲線

2006年4月
有賀健*1

要旨

本稿では、日本におけるマークアップ率の変動と景気循環やインフレ率との関係を検証する。法人企業統計を用いて産業別・規模別のマークアップ率の時間変動を推定した結果、日本のマークアップ率は、総じて景気と順循環を示すことが確認できた。また、推定されたマークアップ率は、手元流動性比率の強い影響を受け、その程度は企業規模が小さい程、また非製造業よりも製造業においてより強いことがわかった。日本のマークアップ率は在庫循環や金融要因により強い影響を受けているとの推測が成り立つ。この傾向は労働保蔵や資本利用率の変動など、マークアップ率変動に関する景気の逆循環要因を考慮しても成り立ち、80年代以降一貫して見られる頑健な性質と言える。
推定されたマークアップ率と、目標マークアップ率の乖離を含むフィリップス曲線はフィットが比較的良好で、限界費用を説明変数に用いるNKPCや、GDPギャップを用いるものよりも説明力が高い。推定の結果は目標マークアップと推定マークアップとの乖離が、80年代初期から減少傾向にあることを示しており、これがインフレ率減速と同時に、フィリップス曲線の傾きの低下の一因であった可能性を示している。

本稿で行った推定作業については、京都大学大学院博士課程のConnie Bayudan氏の助力を得た。記して感謝したい。また、本論文は、東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局共催による「1990年代以降の日本の経済変動」に関する研究会(2005年11月24、25日)における報告論文である。指定討論者の粕谷宗久氏および研究会参加者からの有益なコメントに感謝したい。言うまでもなく、本稿の不完全な点や誤りは著者の責任である。

  1. *1京都大学経済研究所 E-mail: ariga@kier.kyoto-u.ac.jp

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