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情報技術革新はわが国の生産性を上昇させたか?

2008年9月
笛木琢治*1
川本卓司*2

要旨

 標準的な成長会計を用いると、わが国の全要素生産性(Total Factor Productivity:TFP)成長率は、1990年代に大きく低下したものの、2000年以降は、回復している姿となる。産業別にみると、こうしたTFP成長率の回復は、「IT製造部門」に限られており、90年代後半以降の米国と異なり、産業横断的にTFP成長率が高まっているわけでないことが示される。もっとも、こうした標準的なTFP成長率には、技術進歩以外の様々な景気循環的な要素が混入しているため、これをもって、2000年以降にわが国経済全体の技術進歩率が高まったと結論付けたり、他方で、「IT製造部門」以外の産業において技術進歩率が伸びていないと考えるのは早計である。本稿では、わが国の産業別データ(1975−2005年)を用いて、(1)資本と労働の稼働率変動、(2)規模の経済効果といった景気循環的な要素を修正した「純粋な」技術進歩率を計測し、ITの利活用と技術進歩率の関係について産業別に考察した。その結果、(1)2000年以降のTFP成長率の上昇は、主として技術進歩率の上昇によってもたらされている、(2)こうした技術進歩率の上昇は、「IT製造部門」だけでなく、「IT利用部門 (ITを集約的に利活用する産業)」でも相応に生じている、という結果が得られた。本稿の結果は、ITが産業横断的に技術進歩率を向上させるという意味で「General Purpose Technology (GPT)」であるとみる考え方が、米国だけでなくわが国でも適用できる可能性を示唆している。

  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail: takuji.fueki@boj.or.jp
  2. *2日本銀行金融市場局 E-mail: takuji.kawamoto@boj.or.jp

日本銀行から

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